2024年4月29日(月)

今月の旅指南

2011年11月25日

 日本を代表する風景といえば、富士山抜きには語れない。さえぎるビルもなく、その雄大な姿を日常的に眺めることのできた江戸庶民にとっては、現代以上に身近な存在だったのだろう。当時流行した、風光明媚な観光地を描いた名所絵にも、富士山を描いたものは少なくない。

歌川広重「冨士三十六景 伊豆の山中」
大判錦絵 安政5(1858)年
静岡市東海道広重美術館所蔵
*前期展示

 浮世絵に描かれた富士山といえば、葛飾北斎(1)の「富嶽三十六景」が名高いが、風景画の名手、歌川広重(2)も富士山を題材とした「不二三十六景」と「冨士三十六景」の2つの揃物を描いている。この広重による富士山に焦点を当てた展覧会が、静岡市東海道広重美術館で開催される。

 広重の富士山を題材にした2つの揃物には同じ場所を描いた作品がある。とはいえ横絵と竪絵(たてえ)による構図の違いで、印象はかなり異なっている。特に広重の晩年の作品に多い竪絵では、近景を大きく、遠景をより小さく描く独特の遠近法によって奥行きのある作品が多いので、構図にも注目したい。

 美術館のある由比(ゆい)には、東海道の難所といわれた薩埵(さった)峠があり、古くから富士山を望む名所であった。鑑賞のついでに、広重の描いた同じ構図の風景を、実際に眺めてみるのも旅の楽しみだろう。

(1)1760~1849年。
(2)1797~1858年。



富士の寿ぎ
<開催日>2011年11月29日~12月25日(前期)、2012年1月4日~2月5日(後期)
<会場>静岡市清水区・静岡市東海道広重美術館(東海道本線由比駅からタクシー)
<問>054(375)4454
http://www.yuihiroshige.jp/

◆ 「ひととき」2011年12月号より

 

 

 

     

 
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