From NY

2019年4月17日

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田村明子 (たむら・あきこ)

ジャーナリスト

盛岡市生まれ。1977年米国に単身留学し、1980年から現在までニューヨーク在住。著書に『ニューヨーカーに学ぶ軽く見られない英語』(朝日新書)、『知的な英語、好かれる英語』(生活人新書)、『女を上げる英会話』(青春出版社)、『聞き上手の英会話』(KADOKAWA/中経出版)など。翻訳書も多数。フィギュアスケートライターとしても知られており、『挑戦者たち-男子フィギュアスケート平昌五輪を超えて』(新潮社)で2018年ミズノスポーツライター賞受賞。

小さな住宅街の島に溢れかえる観光客

ルーズベルトアイランドのミニ桜祭り

 マンハッタンの東側、イーストリバーの中洲にあるルーズベルトアイランドは、長さ3キロ、幅500メートルほどの細長い島で住宅街になっている。この島の両側には各種の桜が植わっていて、以前から日本人コミュニティの間では秘密のお花見スポットになっていた。ここには600本ほどの桜の木があり、一ヶ所での本数でいうとニューヨーク市内でもっとも多いのだという。

 この桜の歴史は意外と新しく、1975年にメアリー・ラスカーという慈善家の女性によって植えられたという。ニューヨーク市内の街の景観に大きな役割を果たした彼女は、国連の敷地内にある桜や、ウェストサイドハイウェイ沿いの桜の植樹にも貢献をした。

 第一回の桜祭りは2011年東日本大震災のチャリティとして開催され、およそ1000人が参加して日本円にして100万円弱の寄付が集まった。

 あれから8年の歳月が流れ、桜祭りはニューヨークの日本人コミュニティの協力などで続けられ、今年は4月13日の土曜日に開催された。

お花見が人口過剰で「悪夢」に

 お琴の演奏会や茶道の野点のデモンストレーションなど、出し物もごく限られてひっそりと小規模にやってきたこの桜祭り。だがこのところのニューヨークのSakura Matsuriブームにのって、今年はこの日、島にはおよそ2万人が訪れた。

 普段の人口は1万人ほどの小さな住宅街の島に、突然住民の倍もの観光客がやってきたのである。

 著者ものんびりと昼過ぎから外に出てみたら、表通りはこれまで見たこともないほどの人口密度になっていて驚いた。

 おまけに途中に唐突に荷物検査のセキュリティラインが設けられて、南側のもっとも桜が多いほうに行きたいお客たちが100メートル以上の列を成して待っている。

桜目当てに、列を成す人たち

 ようやく検査を突破してお花見エリア中心部に到達したが、ソメイヨシノなどが満開になっている下の芝生はお花見客でびっしり。屋台らしきものはわずか3軒しかなく、いずれも中国人らしいオーナーたちが長蛇の列のお客を相手にパニック状態になっていた。それでもみんな、どこかで手に入れてきたピザのテイクアウトなどを広げて、たくましくも楽しそうに過ごしている。

 だが問題は、往復の交通渋滞だった。マンハッタンからこのルーズベルトアイランドまでは、地下鉄で一駅である。またトラムウェイと呼ばれる、スキー場にあるようなゴンドラもマンハッタンから通っている。だが午後になるとどちらもマンハッタンに帰ろうとするお客、これから島に到着したお客で列がとぐろを巻いてぐちゃぐちゃになり、機能不全になっていた。

 地下鉄は一時プラットフォームから地上階に上がるまで30分もかかる混雑になり、安全性を危惧したMTAが一時ルーズベルトアイランド駅の停車をやめさせて電車を通過させる非常事態にまで発展したという。この暢気な住宅街は、観光客受け入れに対応する準備など全くできていなかったのだ。

 そんな思いをしても、みんなそんなにSakuraが見たいのか。子連れの家族など、見ていて気の毒で、ニューヨーカーのお花見への熱意に、筆者はただただ驚愕するばかり。

 その日の夕方ABCやらNBCなどのニュースチャンネル、ニューヨークポスト紙などに大々的に「Roosevelt Island Cherry Blossom Festival Blooms into Nightmare for Subway Riders」(ルーズベルトアイランドの桜祭りは、地下鉄の乗客に悪夢をもたらした)というニュースが報道された。

 あああ。これほど叩かれても、おそらく来年も花見をしたいニューヨーカーたちは懲りずに戻ってくるだろう。桜はあれど、お花見の整備をするノウハウはない。Sakuraブームに体制側が戸惑っている、ニューヨークの春だった。
 

  
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