2024年11月22日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2012年1月19日

世代格差は地域格差より深刻

 地域間の一票の格差の他に、年齢間の格差という問題もある。投票権は成人だけに与えられている。これは子どもには判断力がないということから決められている訳だが、だからと言って未成年者の権利を無視して良いという訳ではない。分別ある大人は、未成年者のことも考えて賢明な判断を下すだろうとして決められた制度であるが、現実にはそうなっていない。

 分かりやすいのは社会保障における世代間格差である。内閣府「経済財政白書 平成17年度版」によれば、現在60歳以上の高齢者世帯は年金等の公的受益から社会保険料租税などの公的負担を差し引いて4875万円の純受益があるのに、将来世代は4585万円の純損失になるという。

 結局のところ、人々は自分のことしか考えず、将来の世代のことなど考えていない。しかも、この傾向は、将来ますます酷いことになる。現在、65歳以上人口の全人口に占める比率は23%であるが、2050年にはほぼ40%となるからだ。

 子ども手当(名称が児童手当に戻ったが)はバラマキだという人が多いが、多くは子どもや孫のない人がそういっている(原田泰『なぜ日本経済はうまくいかないのか』Ⅰ−3、新潮選書、11年、参照)。年金はほぼ全員が必要だというが、その財源の半分以上が税金と将来世代からの借入で、自分の積み立てたお金を老後にもらっている訳ではない。子ども手当がバラマキなら、年金こそがバラマキなのである。まずは、年金を老人手当と言い換えることが必要だ。

2010年10月参議院議員選挙における年齢別投票状況
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 右図は、10年10月の参院選での男女別年齢別の投票者数と棄権者数を示したものである(両者を合計すると有権者数となり、投票者数を有権者数で割ると投票率になる)。図を眺めただけで、高齢の有権者数が増大していることが分かるが、投票者数を見ると、さらに高齢者の比重が高まっている。高齢者の方が投票率が高いので(さすがに80歳を超えると外出も大変なようで、投票率は低くなる)、有権者数は現在ほぼ樽形をしているが、投票者数は完全に逆ピラミッド形をしている。

 現在、55歳以上の有権者は全有権者の48%だが、投票者数で見ると55%と半数を超える。高齢者の政治力は、投票率の高さによって増幅される。

 本来、高齢者は子や孫があり、次の世代のことを考えた判断ができる訳だが、高齢社会とは子や孫がいない社会であり、現在の福祉国家では、自分ではなく他人の子や孫に扶養してもらえる。この制度の下では、現行の年金制度のように、 次の世代の負担を考えない政策が採用される危険があり、実際に採用されてきた。

 しかも、20歳未満の人は選挙権がない。地域ごとの一票の格差は最大で4・86倍だが、年齢ごとの格差は選挙権のない人がいるのだから、無限大ということになる。

 既得権の壁のある地域ごとの格差よりも、年齢間の格差を是正することの方が容易ではないだろうか。年齢間の一票の格差を解消するために、子どもの投票権を親が代行して行使できるようにすることが必要なのではないか。非現実的だとの反論が返ってきそうだが、ドイツでは議会で議論されるまでに至っている。日本でももっと積極的な議論が必要だ。

[特集] どうすれば良くなる?日本の政治

◆WEDGE2012年1月号より


 




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