別名“百々御所(とどのごしょ)”と呼ばれる京都・宝鏡寺(ほうきょうじ)は、「人形の寺」として知られる。歴代の皇女が住職を務めてきた門跡寺院で、内親王の入寺(にゅうじ)にともない、父君である天皇から折に触れて人形が贈られたため、数多くの人形が寺宝として伝えられていることに由来する。
皇女の愛玩品だった人形が一般公開されるようになったのは、昭和32(1957)年以降のこと。毎年春と秋に約1カ月にわたって「人形展」が開催され、通常は非公開となっている本堂や書院などにも人形が飾られる。なかでも春の人形展では、雛人形を中心とした展示を楽しむことができる。
人形展で飾る等身大の人形の制作を毎回手掛ける有職御人形司(ゆうそくおんにんぎょうし)の一二世・伊東久重さんによると、
「展示される人形は御所から下賜(かし)された由緒正しいもので、それぞれ品格があり、なおかつ愛らしいものが多いのが特徴です。等身大の人形は、毎回異なるテーマを設定し、江戸時代の人の背格好に合わせて制作、公家の装束や風習を再現するなど、往時の様子を伝えるものとなっています」
宝鏡寺に伝わる雛人形には、光格天皇の内親王、三麼地院宮(さんまじいんのみや)(霊厳理欽尼・れいごんりきんに)が天皇より拝領した、直衣(のうし)や狩衣(かりぎぬ)など、公家の装束を反映させた有職雛(ゆうそくびな)をはじめ、旧家から寄贈された雛人形の名品などが含まれる。孝明天皇の形見分けとして下賜された御所人形“孝明さん”や、赤い髪の童子姿で疱瘡(ほうそう)の見舞い品として使われた猩々(しょうじょう)人形、正座することができる三折(みつおれ)人形など、珍しいものも少なくない。
また、幼少時代の皇女和宮が一時期居住した折に遊んだ鶴亀の庭をはじめ、月光椿や八重桜など、四季折々の花々が咲く庭園も見どころの1つとなっている。
「人形展では、皇女ゆかりの人形の持つみやびな雰囲気に浸っていただきたい。長い歴史を見つめてきた人形と語らい、心を通わせてみるのもよいでしょう」
愛らしい表情で皇女の心を和ませてきた人形との出会いは、心安らぐ時間となることだろう。
春の人形展
<開催日> 2012年3月1日~4月3日
<会場> 京都市上京区・宝鏡寺(市営地下鉄烏丸線今出川駅下車)
<問> 075(451)1550
http://www.hokyoji.net/
■「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
週に一度、「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。