理由なしに軍事援助を突然凍結
トランプ大統領は7月18日、周囲が驚く行動に出る。3億9100万ドルに上るウクライナへの軍事援助の凍結を突然指示したのだ。この軍事援助はロシアのウクライナ介入を抑止するための重要な支援だが、凍結の明確な理由は示されなかった。このため国防総省、国務省などの担当者らから不審の声が上がり、担当者らは理由を検討するため、3回にわたって会議を開くまでした。
大統領は後日、凍結は「ウクライナの大規模な汚職への懸念から」と釈明したが、その後、「援助は米国だけではなく、欧州諸国も資金を出すべきだと考えるからだ」と説明を変えた。
そして7月25日、トランプ、ゼレンスキー両大統領の問題の電話会談が行われた。トランプ大統領は米国がウクライナを助けてきたことを指摘し、「見返りが必要とは言わないが、“頼み事”がある」と述べ、バイデン氏に関する調査を切り出した。トランプ氏はバイデン氏が息子ハンター氏のウクライナでの訴追を止めたという話があり、「調べてもらえれば」と持ち掛けた。
大統領はさらに「ウクライナにはとても優秀な検事がいると聞いているが、彼が更迭されるのは不公平だ。多くの人がそう話している」と述べ、レゼンスキー大統領にルツセンコ検事総長を更迭しないよう求めた。更迭されれば、バイデン氏の捜査に支障が出ることを恐れたためと見られている。
民主党やメディアはトランプ大統領が軍事援助と引き換えに捜査するよう圧力を加えたとの批判を強めているが、大統領の会話を傍受していたウクライナ関連や安全保障担当者ら十数人は大統領の発言が大きな問題になる、とすぐに理解したという。
電話会談の翌日の7月26日、ボルカー対ウクライナ特別代表、ソンドランドEU代表部大使の2人が急きょ、キエフでレゼンスキー大統領らと会談、トランプ大統領の求めにどう対応すべきかを指南したとされる。その1週間後、ジュリアーニ氏もマドリードでレゼンスキー大統領の側近のイェルマク氏と会談した。
8月12日、トランプ大統領の電話会談での発言が情報機関の監察官に内部告発された。告発したのはホワイトハウスに勤務したことのある中央情報局(CIA)職員だったとされる。1カ月後、ウクライナへの軍事援助の凍結が解除され、同18日、ワシントン・ポスト紙が告発を特ダネで報じ、政界を揺るがす大事件となった。
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