過激活動家のシンボル 「モンキーレンチ」
ぼさぼさの髪の毛に浅黒い顔、そして、よれよれの服装。SS母船スティーブ・アーウィン号の船内で撮影された写真から、乗り込み実行犯たちはみな注目を浴びたいだけの「ヒッピーまがい」のような印象も受ける。しかし、リーダー格のサイモン・ペタフィーの右腕に彫られた入れ墨の模様は、彼が筋金入りの過激活動家であることを告げていた。
その模様とは、工具の一種「モンキーレンチ」だった。これは米国で1980年代から徐々に勢いを増した過激環境保護運動のシンボルである。米連邦捜査局(FBI)が「エコテロ団体」として認定し、動向を注視している「地球解放戦線」(ELF)のメンバーにも、モンキーレンチの入れ墨を彫っている者たちがいる。
ELFは「自然環境の破壊や搾取により利益を得る人々に経済的ダメージを与える」ことや「地球に生息するすべての種と大地に対して犯した残虐行為を明らかにし、大衆を教育すること」を基本理念とし、社会を喚起する苛烈な破壊工作を何度も起こしている。米国では、山岳地帯に建設されたコンドミニアムや森林バイオテクノロジー研究所などが放火されるなど、すでに1億ドル以上の被害が申告されている。
実際、「フォレスト」は日本船乗り込み事件を起こすまでにも、森林伐採妨害などの目的で数々の過激活動を展開し、ペタフィーは地元の治安当局から10の容疑で立件されているお尋ね者だった。つまり、「モンキーレンチ」は環境保護を大義名分にして、破壊工作を行う環境テロリストを見分ける1つの印なのだ。SSの捕鯨妨害に「フォレスト」の面々が加わったことは、エコテロの本場で培養された環境原理主義の種が海を渡ってオーストラリアで発芽し、日本に牙を向き始めたことを意味した。
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