5団体が協定
二戸市は漆産業をさらに発展させるための取り組みとして、16年からは総務省が推進する「地域おこし協力隊」をスタートさせた。漆搔きで自立を目指す「うるしびと」を「協力隊」として募集するもので、第1期生(男女2人)が3年間の研修を終えて、今年3月に漆搔きとして独立した。2人とも県外からの移住者だ。このほか日本うるし搔き技術保存会による長期研修生も受け付けており、毎年3~4人が研修生として学び、漆搔き職人として独立しているという。
昨年の10月、漆の供給者と需要者の5団体が協定を結んで、年間の文化財の修復に使われる漆の需要量などを話し合うことになった。需要側の日光社寺文化財保存会も参加し、この話し合いを持つことで、安定的な漆の供給になり、漆を栽培する側も安定収入となって漆産業の振興にもつながるという。
二戸市の浄法寺漆は、豊富なバリエーションとともに耐久性にも優れていることから、漆芸家や文化財を修理する職人から作風や使用現場の環境に応じた漆を使用できることから、高く評価されてきた。昨年の12月に漆としては初めて、農林水産省による特定農林水産物の名称の保護に関する法律(地理的表示法)の指定を受けた。
茨城、京都府でも
二戸市に次ぐ産地の茨城県大子町も増産に向けて取り組んでいる。昨年の生漆の生産量は200㌔で一昨年と比べて微増。今年は「協力隊」のメンバーが1人加わり、NPOが植林にも力を入れているという。丹波漆の伝統がある福知山市でもNPOが中心になり植林をしている。NPO法人丹波漆の岡本嘉明理事長は「今年は千本ほど漆を植林した。近い将来的には3千本にして、若い人が漆で生計を立てられる規模に育てたい。京都市の業者が文化財の修復用として安定的に購入してくれるので、励みになる」と話し、徐々に生産量を増やそうとしている。
古事記に伝わる漆栽培
新規に漆を栽培する取り組みをスタートする自治体もある。奈良県の山間にある曽爾(そに)村は「ぬるべの郷」とも言われ、古事記の中で古くは平城京の都があった奈良の朝廷に、漆の生産と漆塗りに関連する官を置いていたという記録が残っているという。05年には村の有志が集まって漆を復活したいというプロジェクトが立ち上がり、衰退した漆を蘇らそうという取り組みになった。
10年には平城京ができて1300年を記念して、曽爾村内で漆が植林されたが、うまく育たなかったという。しかし、その後も外部のサポートを受けながら漆の植栽を続けてきた。また、全国各地で漆の里山づくりとモノづくりを支援しているNPO法人ウルシネクスト(柴田幸治理事長)にサポートしてもらうことになり、外部とのネットワーク、企業との関係を取り持とうとしている。
柴田理事長は「かつて漆が植えられていた全国にある里山が、いま廃れたままになっている。これを何とか蘇らせて、地域全体が潤うような仕組みを作るお手伝いをしたい。行政だけではできないので、関心のある周辺の人を巻き込んで盛り上げていきたい」と話す。漆の将来性については「軽くて固いという特性を生かして新しい素材としても注目されている。麻や木綿の上に漆を塗ることで、廃棄物として世界で環境問題になっているプラスチックに代わる新素材として、価値を生み出すかもしれない」と新しい可能性について指摘する。