立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年12月3日

»著者プロフィール
著者
閉じる

立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

利益を得ながらも中国を裏切った反乱者たち

 一方では、イデオロギーの対極に立つ米国の政治家たちは、「香港人権法案」を上下両院ほぼ全会一致で可決した。これもなかなか珍しい。

 米国議会といえば、様々な政見や主張、そして様々な利害関係が錯綜している「政治のるつぼ」。どんな法案にも賛否両論がつき、論争を繰り広げるのが常態である。中国に関していえば、経済的利益が常に絡んでいる。財界、特に中国の勢力が浸透しているウォール街となると、利害関係がさらに複雑になる。「香港人権法」のような法案には、反対が半数まで届かなくとも、全員がおとなしく黙っているはずがない。

 トランプ政権で首席戦略官を務めたバノン氏は2019年4月25日に開かれた会議で、「米国の実業界は中国共産党のロビー機関であり、ウォール街は投資家向け広報部門だ」とまで痛烈に批判した(2019年4月26日付、ブルームバーグ)。しかしこれを背景にしながらも、議会では上下両院のほぼ全議員が法案に賛成票を投じた。異様な光景としか言いようがない。日本共産党の一件と同じような不思議な出来事だ。

 少なくとも議員たちは、親中派と思われたくない、親中派と思われたらまずいと感じたのだろう。そういう事情があった。かりに直接であれ間接であれ、中国から何らかの利益を得ていたとしても、ここで法案に反対して親中派のレッテルを張られた場合の不利益や有害性がむしろ、中国絡みの利益をはるかに上回り、あるいは致命的であったりする。そうした事情があったのではないかと思われる。

 打算的なところは、イデオロギーに関係なく、米国の議員も日本共産党の政治家も共通しているわけだ。利害関係を天秤にかけて選択をするのは一種の本能である。中国共産党も然り。そもそも理念の共有も利益の共有も、永続的ではない。いざというときになれば、裏切られたりするものだ。

 香港の当事者たちを見てみよう。

 11月18日、香港の高等法院(高裁)は、民主派の抗議デモ参加者に覆面を禁じる「覆面禁止法」条例について、違憲の判断を示した。

 「一国二制度」下の香港。司法の独立といえども、北京政府の意思に反しての司法判断は誰でも容易に下せるものではない。裁判官たちは少しでも自身の利益やキャリアを考えれば、将来の不利益を容易に予見できるものであろう。それでも、上意忖度することなく、「反乱」を起こした彼たちは、正義と良心によってのみ支えられたのだろうか。あるいは、正義が必勝であることを見通したのだろうか。

 そして11月24日の香港区議会選挙。民主派が87%の議席を獲得し圧勝した一方、北京を支持してきたいわゆる建制派(親中派)は惨敗した。親中派で落選した候補者には、何君堯氏や田北辰氏、陳家珮氏、張国鈞氏、周浩鼎氏などの大物も含まれていた。これにより、区議会レベルとはいえ、いわゆる親中派の基盤が崩壊までいかなくとも、大きく脆弱化した。親中であるがゆえに得られたはずの利益を失った人々、その落胆ぶりは想像に余りあるほどのものだったのであろう。これからよほどの「政治的救済」(議員年俸の補てん支給?)がなければ、彼たちは単なる信念の1つで親中派にとどまるのだろうか。

 さらに、民主化運動弾圧の急先鋒として先頭を走ってきた高官や関係者たちにとって、これから米「香港人権法」の発動により、制裁対象となるリスクが生じる。家族が米国に移住し、米国に多くの資産を有している有力者たちは、同法の発動により、米国行きを断念せざるを得なくなるだけでなく、家族も米国を出国すれば、二度と入国できなくなる可能性があるため、一家離散の境地に追い込まれるかもしれない。さらに、米国内の資産も凍結されるとなれば、人生は真っ暗になる。この人たちは今後、立ち位置を慎重に考えざるを得なくなるだろう。

関連記事

新着記事

»もっと見る