2024年11月23日(土)

中東を読み解く

2019年12月10日

割れる治安部隊

 イランが背後で暗躍しているとの見方が出回るのは、宗教、政治、経済、軍事などあらゆる面で、イランによるイラク支配が進んでいることの表われでもある。そうした中、デモが反イラン色を強めていることに、イランが焦燥感を募らせていることは想像に難くない。イランが配下のイラク民兵に襲撃を行わせているのではないか、との憶測が広まる理由だ。

 イランは米軍が2003年にイラクに侵攻した後、米軍に対するテロ攻撃を実行させるため、イラクのシーア派教徒を支援し、「アサイブ・アルハク」や「イラク・ヒズボラ」などの民兵組織を作った。そうした民兵組織の多くは現在、「イラク人民動員部隊」として統合され、イランとの強力な関係が続いている。イランは内務省直轄の治安部隊にも影響力を保持している。

 しかし、イラク国軍は反イラン色が強い。過激派組織「イスラム国」(IS)掃討の英雄として人気の高かったイラク軍将軍が最近左遷されたのも、今月辞任したアブドルマハディ首相にイランが強制してやらせた人事、との反発が広がっている。デモ隊もこの人事への反対を盛んに叫んでいる。

 デモ隊の取り締まりも、「イラク人民動員部隊」や内務省の治安部隊がイランの意向を反映してか、「徹底鎮圧」の姿勢なのに対し、国軍は「武力行使には慎重」、と異なっている。治安機関がこのように対立している時に、今回の襲撃事件が起きており、一部には「イラク人民防衛隊」に合流していないイラン支援民兵の犯行という説が根強く流れている。

 だが、軍部を統率しなければならない政府はアブドルマハディ首相が辞任し、新政権作りは混迷を極めている。その大きな理由は親イラン、反イランをめぐって政党各派の対立が激化していることだ。アブドルマハディ首相はイランが手塩にかけて育てた政治家といわれ、親イラン派だった。

 しかし、議会最大派閥「行進者たち」を率いるサドル師は親イラン政権樹立には断固反対する考えで、議会第2の勢力である親イラン派「征服連合」の代表ハディ・アミリ氏とは対立状態にある。アミリ氏は「イラク人民動員部隊」を構成する民兵組織の司令官でもあるが、両勢力が相容れない状況の中で、新政権を発足させるのは至難の業だ。

 だが、イラクの混乱を煽るような“闇の組織”による襲撃事件の背後関係はそう単純なものではないかもしれない。「イラクが不安定化し、イランが困ることを願っている国は多い。イランにとっての不利益は敵対国イスラエルやサウジアラビアにとっては大いに歓迎するところだろう」(ベイルート筋)。深層はまだ見えない。

  
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