2024年11月24日(日)

Wedge REPORT

2019年12月20日

日本独特の「企業オーナー」Jリーグで地域視点が加わる

 今後のスポーツの在り方を考える前に、日本のプロスポーツがこれまで歩んできた道を辿(たど)ってみる。日本で80年以上という長い歴史を誇るプロ野球は、世界的に見ても独特な運営形態である。それは、企業がオーナーとして球団運営に深く関与し、本業のビジネスに活用してきた点だ。例えば電鉄会社や新聞社が本業との相乗効果を引き出すため、最近ではIT企業が自社のブランドを訴求・確立するために球団を保有してきた。この「企業オーナースポーツ」ともいえるモデルは親会社から球団への「赤字補填(ほてん)」が広告宣伝費として認められるという1954年の国税庁の通達も結果として後押ししている。

 一方、欧米では、「企業オーナースポーツ」の形態はあまり見られない。企業のプロスポーツへの関わり方は、オーナーよりも関与が薄い「協賛(スポンサー)」という形が主流となっている。それは地域からスポーツ文化が生まれ、公共財としての側面が文化として根付いているためであろう。

出所)原田宗彦・小笠原悦子編著『スポーツマネジメント改訂版』(2015)より
※リーグ末尾の数字はトップリーグの所属クラブ数 写真を拡大

 大富豪や投資家によるオーナーシップもあるが、オーナーはクラブ名、チームカラー、ロゴといったクラブ文化を尊重することを求められるケースが多い。地域のステークホルダーからすれば、クラブ文化の尊重が遵守(じゅんしゅ)されるのでオーナーを許容できるし、オーナーからすると、一定の制約はあっても金銭的なメリットだけでなく名声・ステータスを含めた非金銭的なメリットを感じられる。

 オーストリアのサッカー・ブンデスリーガのFCレッドブル・ザルツブルクは、オーナー企業である「レッドブル」の名を冠した数少ないクラブであるが、同様のモデルをドイツのリーグでも適用しようとした際は、リーグから受け入れられなかった。最終的には、RasenBallsport(芝生球技)の略称がレッドブルの略称と同じRBとなるドイツ語の造語を冠するという回避策を講じている。

 このように、日本の多くのスポーツは元来、地域に根差した公共財としての側面が薄く、企業が自社のためにスポーツを活用し、発展させてきたといえる。この流れを転換させたのが、「地域密着」というコンセプトを持ち込んだサッカーのJリーグだ。91年のJリーグ設立以前は、サッカーチームもほとんどが「企業内スポーツ」だったが、オーナー企業にCSR(当時はメセナと呼ばれた)としての「地域密着」をスローガンに掲げさせた。そのためチーム名に企業名を冠することができず旨味(うまみ)が少なかったが、Jリーグ構想の検討段階では、バブル崩壊の直前であったため、企業はこの変革を受け入れる余地があった。

 その後Jリーグの理念は広く浸透していき、欧州サッカークラブの運営形態により近くなっていった。また、オーナー企業が支えるモデルだけでなく、多数の地元企業がスポンサーとなり、自治体も全面的に支える松本山雅(やまが)のような「地域スポーツ」も誕生した。

 またプロ野球においても、一時はサッカーブームに押され気味だったが、地域密着を強める球団が増えていった。北海道日本ハムファイターズ、東北楽天ゴールデンイーグルス、福岡ソフトバンクホークス、横浜DeNAベイスターズなどである。これらの球団は自治体とパートナーシップを結んで野球球団の発信力の高さを活用して地域の活性化に貢献している。例えば横浜DeNAベイスターズは、横浜の街づくりに関与し、地域との関係性を上手に構築しており、それがDeNAの企業ブランディングにつながっている。


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