2022年8月10日(水)

Wedge REPORT

2019年12月20日

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杉原海太 (すぎはら・かいた)

FIFAコンサルタント

東京大学工学部修士課程修了後、コンサルタント会社勤務を経て、FIFAマスターを修了。アジアサッカー連盟で、各国のリーグやクラブ支援プログラムの立ち上げに尽力した。2014年から、日本で唯一のFIFAコンサルタントとして世界で活躍する。

期待されるスポーツと地域と企業の新たな関係

 スポーツと企業と地域がお互いメリットを享受するウィン・ウィンの状況になるためには、異なるステークホルダーの立場を尊重し、共創していくことが求められる。例えば企業の目線から見れば、ただ自企業のビジネスメリットだけ考えてスポーツに関与するのではなく、スポーツ側・地域側の理屈をきちんと理解し、丁寧に関係性を構築していく必要がある。

 先日、サッカーJ2のFC町田ゼルビアのオーナーになったサイバーエージェントがチーム名を「FC町田トウキョウ」と改称する方針を掲げたものの、サポーターによる反対で改称を取りやめた。同社はサポーターとの対話集会を開き、その様子を「ユーチューブ」で公開していたのだが、サポーターと丁寧かつオープンな対話で意思決定をした。このような姿勢の企業がどんどんスポーツに参入していけば、スポーツと企業と地域のウィン・ウィンは増えていくのではないか。

 また、これからプロリーグ化を考えるスポーツは、チームの拠点を置く地域における当該スポーツの人気度や普及度、さらには人口や経済規模などを考慮して、適切なモデルを選択していくべきだ。例えば人口・経済規模があって興味を持つ企業が存在すれば「企業オーナー+地域スポーツ」はプロスポーツとして最適かもしれないが、大企業が存在しなくても、一定水準の人口・経済規模が地域に存在すれば「地域スポーツ」が持続的なモデルとなる。一定水準の人口・経済規模がないのであれば、プロ化しないという選択肢も考慮した方がよい。サステイナビリティが叫ばれる時代に、ただやみくもにプロ化・産業化を進めるというのは時代にマッチしないだろう。

ジムとジョギングの二択「するスポーツ」は未開拓

SASAKI MAKOTO / GETTYIMAGES

 ここまでプロスポーツ、いわば「みるスポーツ」と企業と地域の関係に関して触れてきたが、令和時代の日本において大きな可能性があるのが「するスポーツ」ではないかと筆者は考える。「するスポーツ」には、健康・教育・人を繋(つな)げる、といった多様な価値が存在するが、スポーツの良いところはそれらが「楽しいからスポーツをやっていたが、気が付いたら健康になってた、学びを得ていた、人と仲良くなっていた」という効果がある点だ。しかも、それら全てが高齢化・人生100年時代にマッチする価値である。

 ただ、特にシニア層を含めた大人の「するスポーツ」は、設備不足もあって、乱暴に言えば「ジムとジョギングの二択」と言っても過言ではないような未開拓の分野である。日本では青少年の「するスポーツ」が部活という形態で学校文化の傘下で運営されてきたが、大人の「するスポーツ」が未開拓なのはその副作用なのかもしれない。

 本来は行政に期待すべき分野なのかもしれないが、筆者は企業が「するスポーツ」にもっと積極的に関与してもよいと考えている。

 「するスポーツ」の健康・教育・人を繋げるといった価値は、分かりやすい広告価値と異なり、どの企業でも活用できるというわけではないだろう。しかし、街づくりを担うような企業にとって相性は悪くないであろう。日本では鉄道会社やデベロッパーが街づくりに関わってきたが、こういった企業が「するスポーツ」を使って街における付加価値を高めることも考えられる。

 こうした「みるスポーツ」「するスポーツ」を受け入れる自治体にとっても、とりあえずスタジアムを建設し、誘致すればよいという発想ではうまくいかない。地域でどのようなスポーツが盛んで、どれだけのチームを持てる経済圏・人口規模なのかを吟味する必要がある。地域に部活文化が根付いている競技があれば、競技人口があり若手選手を輩出できるし、興味を持つ人も多く地元スポンサーがつく。チーム誕生ストーリーも作りやすく、多くの人の共感を得ることができる。

 スポーツビジネスは、スポーツ・企業・地域と異なるステークホルダーが関わるため、主導者不在となり進まないという状況もまま起こる。欧米ではスポーツが地域に根付きかつビジネス価値も高いため、スポーツ組織が主導していくことも多いが、日本におけるスポーツ組織が行政や企業を巻き込んでいくケースは稀である。企業がスポーツ界で重要な役割を果たしてきた日本ならば、企業がスポーツ組織や地域と関係性を構築しつつ、「みるスポーツ」も「するスポーツ」も主導していくことも可能なのではないか。

 オリパラにおける企業の関わり方は基本的には協賛だが、協賛は良くも悪くも「限定的」な関わり方である。世界的に主流な関わり方ではあるが、それだけに捉われず、日本ならではの企業のスポーツへの関わり方をポストオリパラの時代に期待したい。

現在発売中のWedge1月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■スポーツで街おこし  プロ化だけが解じゃない
Part 1  独特の進化を遂げる日本のスポーツに期待される新たな役割
Part 2      INTERVIEW 川淵三郎氏(元日本サッカー協会会長)
     プロリーグ化に必要な4本柱 地域密着がクラブ経営の大前提
Part 3      先進事例に学ぶ 「おらが街のチーム」の作り方
Part 4      INTERVIEW 池田純氏(横浜DeNAベイスターズ初代球団社長)
     スポーツで地域活性化 成否を分けるカギとは?
Part 5  岐路に立つ実業団チーム 存続のカギは地域との連携
Part 6  侮れないeスポーツの集客力 街の賑わい作りに貢献

  
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◆Wedge2020年1月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 

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