2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年1月17日

 リビア内戦は、トリポリの国民合意政府(Government of National Accord; GNA)と、ハリファ・ハフタル率いるリビア国民軍(Libyan National Army)とが対立する構図となっている。両者を外国勢力、具体的にはロシアとトルコが、それぞれの思惑から支持し、リビアに破綻国家への道を歩ませているように見える。

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  報道によれば、ハフタルは12月20日、トリポリにあるミスラータの民兵が22日の夜中までに撤収しないのであれば、彼等の町であるミスラータが徹底的に叩かれるだろうとの最後通牒を発した。この最後通牒は、ハフタルのリビア国民軍がトリポリ、ミスラータ、シルテを爆撃した後に出されたものであるが、11月27日のトルコとGNAの軍事協力に係わる合意に反応したもので、トルコが供給した兵器の貯蔵場所を空爆した由である。

 ハフタルは去る4月以来、トリポリの占拠を目指してきたが、成功していない。しかし、ここに来て戦況が動き始めたらしい。それは、ひとえにハフタルを支援するロシアの梃入れによるものだと見られる。ロシアの傭兵だけではない。ジェット戦闘機、ミサイル、精密誘導砲を投入して直接的な介入に乗り出しており、リビア内戦にロシアが主導して結末を付ける企てと見られる。これはロシアがシリアで採用した手法に他ならない。ハフタルの軍はトリポリに迫っている。

 対するトリポリのGNAは公式には国連と欧米諸国が支援していることになっているが、実際上、唯一、軍事的に支援するパトロンはトルコである。12月9日および10日にエルドアンは、要請があればハフタルの軍によるトリポリ占拠を阻止するためトルコが部隊をリビアに派遣するかも知れないと警告した。リビア沖の海底油田に対する関心もあって彼は強く出ているのかも知れない。エルドアンはロシアとの関係でシリアの二の舞は避けたく、プーチンと話を付けたいらしいが、どうなるのか分からない。

 シリアに加えて、ロシアがリビアの支配勢力となり足場を築くことになれば、米国の権威は大きく損なわれる。その米国はどうするつもりか分からない。去る4月、ポンペオはハフタルの軍事行動の停止を要求したが、その直後、トランプはハフタルに電話して「テロとの戦いとリビアの石油資源の安全確保におけるハフタルの重要な役割を認めた」ことになっている。

 EUも複雑である。フランスはハフタルの側についているようであり、EU全体の立場はすっきりしない。11月にトルコはGNAとの間で、両国の排他的経済水域の境界を定める合意に署名した。これは他に頼る国のないGNAがトルコの要求に屈したものであろうが、12月12日のEU首脳会議は、この合意は「第三国の主権を侵害し、海洋法に違反している」として、激しく反発するギリシャとキプロスとの結束を表明している。EUはトルコとも問題を抱える。

 リビアは、介入する諸外国の庇護に下にある2つの陣営が国の争奪戦を演じ、破綻国家への道を歩んでいる。リビアには石油がある。リビアは海を隔てて欧州正面に位置し、欧州を目指す難民の送り出し地点である。その砂漠は過激派の安全な隠れ家である。或る意味で、シリアよりも問題は重大である。そのリビアの処理をロシアとトルコに委ねて安閑としていて良いものか、甚だ疑問である。

 

  
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