Start Upを支える投資家としての財閥
Start Upといえば、事業が軌道に乗るまでは、常に資金繰りに悩まされるものである。Gojek・Grabほどの規模になれば、戦略投資家による出資を受けることもできるが、アーリーステージにおいてはベンチャーキャピタル(以下VC)からの支援は必須と言える。日米・シンガポールの有力VCにとっても、数多くのStart Upが生まれるASEANは重要な市場であるが、近時、財閥傘下のVCがそのプレゼンスを際立たせている。
インドネシアの例になるが、資料4、5はそれぞれ大手財閥シナルマスとリッポーが率いるVCである。
また資料6はジャルムタバコを手掛けるハルトノファミリー傘下のVCである。リッポー傘下のVenturra CapitalはGrabに、またハルトノ傘下のgdpはGojeckに出資するなど、これらユニコーン企業がよちよち歩きのころから支援してきたのである。非常にリスクの高いVC投資であるが、ユニコーンに成長したGrabやGojekへの出資は、今後のIPOが上手くいけば莫大な利益を生み出すであろう。
また投資のリターンもさることながら、Start Upの事業規模が大きくなった暁には、自らの既存事業とのシナジーを実現していくことも可能だ。またStart Upにしてみれば、資金の援助のみならず、財閥が有する顧客ベース、サプライチェーンを活用できる。正にWin-Winな関係と言えるのである。
財閥そのものがStart Up事業を開始している例もある。資料7にあるように、シナルマスが伊藤忠と組んでFintechの領域でのP2Pレンディングの事業を開始したのが最たる例である。先述の通り、インドネシアにおいては銀行口座の保有比率が低いが、そのような人向けに融資をするのがP2Pレンディングである。Start Upに積極的に出資を行いつつ自らが新規事業を立ち上げるところに、今の日本企業にはないASEAN財閥のダイナミズムを感じる。