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2020年2月20日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

歴史に残る指揮権発動

 日本で想起するのは、昭和29(1954)年の造船疑獄事件だ。

 造船に対する利子補給法案をめぐって多くの政財界人から政界に金が流れ、与党、自由党の幹事長だった佐藤栄作氏(当時、のち首相)の収賄容疑にまで発展、検察が佐藤氏の逮捕状を請求した。しかし、当時の犬養健法相は、重要法案の審議中であることを理由に、検察庁法14条に基づき、佐藤藤佐検事総長に逮捕を見送り、任意で捜査するよう指示した。

 犬養法相は責任をとる形で辞任したものの、佐藤検事総長は国会の証人喚問で、「逮捕できなかったことで捜査に支障が出た」と政府の取った方針を強く批判した。

 本来、強い権限を持つ検察に対する内閣のけん制手段であるはずの「指揮権発動」は政権による検察捜査への不当介入の代名詞ともなり、批判を恐れる政治家が委縮、その後再び発動されたことはない。

 現在でも、大規模な汚職時間などの捜査の過程で、首相や法相が「指揮権発動はしない」と明言するのは、あらぬ誤解をさけようという意図からだ。

政府の説明は十分か?

 検事長定年延長問題、大統領の判決介入問題が今後どう展開していくは、にわかには判断できないが、検事長問題に限ってみれば、安倍首相はじめ政権側の対応は十分であるとは思えない。

 不十分な弁明で中央突破するのではなく、黒川氏の定年延長の目的が、いわれるように検事総長が目的であるなら、その旨を率直に認め、なぜ氏が検事総長として適格なのかをよく国民に説明すべきだろう。東京高検検事長は検察のナンバー2であって、検事総長に昇進することが少なくない。異例の人事ではないのだから、野党が思わず黙ってしまうような丁寧な説明をすればかえって政権の信頼も増すだろう。

 森雅子法相は産経新聞のインタビューで黒川氏の定年延長について、「重大かつ複雑な事件に豊富な経験を生かしていただくためだ。不自然な人事ではない」(2月10日産経電子版)と説明したが、子供だましのような紋切り型の説明にだれが納得するか。

検察は納得しているのか?

 気になるのは検察の反応だ。内閣の一員の法相が政府方針に従うのは当然として、検事総長はじめ検察からの反応は公式には伝わってこない。検察内部にも〝黒川検事総長〟を歓迎する声がないわけではないとも聞くし、政治が決めることに口出しすべきではないと沈黙を守っているのかも知れない。

 森法相は産経新聞のインタビューで「検察人事に当たっては通常、事務方からあがってきた案を尊重している」と述べているが、「事務方」というのは検察だろう。事実なのだろうか。

 「官邸の介入を甘受するなら捜査機関としての検察が受けるダメージは計り知れない」(2月11日、東京新聞朝刊)という手厳しい厳しい指摘もある。状況は異なるが、米国では検事が職を賭して大統領の干渉に抗議した。

 ぜひ日本の検察の言い分を聞いてみたいところだ。

  
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