中東の発火点はイランだけではない。余り注目されていないが、2014年から内戦が続くリビアを巡ってエジプトとトルコの間の緊張が高まっている。対立の激化は、欧州への難民流入を再燃させるかもしれない。また、それはリビアでのISISの再興をもたらすかもしれない。
これに関して、フリーのライターのニコラス・サイデル(Nicholas Saidel)は、2月9日付けウォールストリート・ジャーナル紙掲載の論説‘The Middle East Conflict You Haven’t Heard About: Turkey and Egypt are feuding over the fate of Libya and who controls the region’s resources’において、(1)リビアの内戦と東地中海のガス田開発を巡ってトルコとエジプトの緊張が高まっている、(2)エジプト、キプロス、イスラエルなどが設立した東地中海ガス・フォーラムから排除されたトルコが開発を阻止するためにリビアとの間で経済水域設定の合意を締結した(その見返りにリビアのシラージュ暫定政権支援のためにトルコ軍の派遣を決定)こと等を説明している。
中東の国際関係はナショナリズムの目覚めにより益々複雑かつ流動的になっている。トルコとエジプトについて見ても、中東の地域大国である両国の地政学的思惑、エネルギー資源競争、イスラミスト政治(ムスリム同胞団等)やキプロス問題(トルコとギリシャの対立になる)への立場の違い等が複雑に絡んでいる。
シシのエジプトはイスラム同胞団やイスラミストの政権に大きな警戒心を持つ。それゆえ、隣国リビアの動向には強い関心を持ち、サウジ等とともに反イスラミストのハフタル将軍(トリポリの国民合意政府GNAに抵抗している)を支援する。他方、非アラブのトルコは、中東では特異な、孤独な国ともいえる。目下野望を持った策略家であるエルドアンに率いられ、ロシアに接近、中東の地図を大きく変えている。トランプも手を焼いているようだ。トルコは、サウジなど王制政権には特異な感情を持つ。リビアに関してはGNAの側を支援している。
トルコとエジプトの対立の背景にはキプロス問題も絡んでいる。トルコにとりキプロスは最も機微な問題である。独立宣言をしたトルコ系のキプロス北部を承認している唯一の国であり、キプロス(国連、EU加盟国。トルコは承認していない)やギリシャと対立する。なお報道によれば、2月14日、リビアの暫定政権シラージュ首相はトルコを訪問した。
東地中海では2010年頃からイスラエルやキプロス(豊富なガス田がある)、エジプト等の沖合で次々とガス田が発見された。キプロス、ギリシャ、イスラエルは東地中海にパイプラインを建設、欧州にガスを輸出しようとしている。19年1月に、これらの国は東地中海ガス・フォーラムを設立した。これらの国によるガス開発を阻止しようとトルコは11月リビアとEEZの境界を定める協定を締結した。地図を見るとトルコとリビアのEEZが接触して東地中海を塞ぎ、ギリシャに向けたパイプライン敷設計画を遮断するような形になっている。トルコの決定にギリシャ、キプロス、エジプト、イスラエルなどが猛反発、米国もEUも、これらの国を支持している。キプロスは国際司法裁判所に提訴している。
リビアでは、西部のイスラム主義勢力とそれと連携するシラージュ暫定政権、東部のハフタルが率いるリビア国民軍と世俗派勢力の間の内戦が続いている。1月13日ロシアとトルコは停戦斡旋を試みたが、ハフタルは合意への署名を拒否した。その直後の19日プーチン、エルドアンはドイツがベルリンで主催したリビア和平会議に参加したが、大きな前進はなかった。
トルコ軍のリビア派遣についてトランプは1月2日「外国のリビア介入は状況を複雑化する」とエルドアンに警告した。しかし、リビアに対する米の関心は低い。サイデルは、上記の論説で、リビアや今回の東地中海のエネルギー問題につき米の「政策」が必要だと主張する。これは正しい指摘である。
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