Wedge REPORT

2020年3月3日

»著者プロフィール

 190年の歴史がある老舗旅館「綿善」(京都市中京区)の若女将、小野雅世さん(35)。3年前に本サイトで『京都の老舗旅館が「従業員年収1000万円」を本気で目指すワケ』として紹介させていただいた。

 新型コロナウィルスの発生で、京都でも中国人を含む外国人観光客が減少するなか、どのような対応をしているのか? 小野さんに聞くべく、京都に向かった。京都在住の知人が「祇園や嵐山などの観光地や町中もかなり(外国人観光客)減っているよ」と話していた通り、タクシーの運転手さんも「激減ですわ」と困り顔だった。

小野雅世さん

 綿善からほど近い京都の台所「錦市場」を歩くと、欧米系の旅行者は見かけても、アジア系の旅行者は見当たらなかった。実際、以前訪れたときには、こんな人出ではなかった。これは、綿善旅館も相当深刻な状況になっているのではないか……と懸念が高まった。

 やはり、ここにきて状況は切迫しているそうだ。「売上の半分を占める、修学旅行の日程変更が相次いでいます。変更先の日はまだ確約できないためキャンセルになるかもしれません」と、小野さん。当初は、インバウンドのみのキャンセルだったが、売上の主軸である修学旅行にも影響が出始め、不安が募る一方だ。

 ただ、こうした苦境を乗り越えるための準備もしている。 小野さんがメガバンクから、実家である綿善に入社したのは2011年の4月。東日本大震災の直後だったことで、ほぼ1カ月キャンセル対応だった。

 「過去に色々な危機を経験しているので『平和リスクに対する考え方』として、運転資金の確保など様々な用意をしているんです」と、さすが元銀行員の対応である。

 観光客が増えすぎて公共のバスに市民が乗れないなど、「観光公害」という言葉が生まれたほどの京都だからこそ、「逆に今がチャンス、と京都旅行を計画してくださる日本の方もいます」。

 「今回の新型コロナウィルスでもそうですが、インバウント利用には波があるので、依存するのは危ないと考えていました。インバウンドが増えているので、そのお客様をもっと増やすということではなく、基盤である修学旅行、国内のお客様を減らさないという努力をしていきました」。

「不便益」とは何か?

 とはいっても、外国人観光客の宿泊者が大幅に減るなかどうするのか。そこは「逆にこの機会を利用して、普段、忙しすぎて取り組めていない課題などに取り組むつもりです」。

 『探偵!ナイトスクープ』(朝日放送テレビ)のレポーターなどへの出演で知られる越前屋俵太さんが近年注目している「不便益」。不便益は京都大学・川上浩司特定教授が提案した概念である。

 いまやホテルや旅館の予約といえば、ネットが中心だ。「OTA=Online Travel Agent」と呼ばれる業者が乱立している。グローバル企業が運営していることもあり、手数料はかさむものの、ホテルや旅館業者からすると、頼らざるを得ない。利用者にとっても、スマホから世界中の宿泊施設を予約することができるというのは、便利なことこの上ない。

 だからこそ、「不便益」なのである。わざわざ、電話、ファックスで予約することに価値があるのではないか? そこにコミュニケーションが生まれるからだ。観光地、食事など、どんな体験をしたいのか、単に宿泊するだけではない、付加価値を提供することができる。

 そんな小野さんの思いを後押しする出来事が、先日あった。綿善に宿泊した人がブログで「神対応をされた」と書いていてくれたことだ。男性としては珍しく仲居担当として働き、このほど仲居頭(かしら)に抜擢した20代の男性社員が、この宿泊者に対して地図を書いて目的地を説明したことを喜んでもらえたのだ。

編集部おすすめの関連記事

関連記事

新着記事

»もっと見る