チャイナ・ウォッチャーの視点

2020年3月10日

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樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

台湾は中国ではない、中国からの横やり

 じつは台湾の蔡英文政権が進める「新南向政策」に呼応するかのように台湾企業、ことに銀行のマレーシア進出が見られる。昨年に「新南向国家融資金額成長奨」を獲得している台中銀行は、最近になってマレーシア進出の第2段階としてペナンに加えサバに駐在員事務所を設置した。

 ペナン、サバの両地には共にマレーシア本土の銀行拠点がない。そのうえ華人が多く、台湾で学んだ華人や現地に根を張る台湾出身ビジネス組織の活動が活発に見られることから、彼らの経営へのテコ入れを図り、台湾の将来への礎を切り開こう。いわば台湾は対岸の中国からの圧力に対抗するため、東南アジアに向かって自らの生存空間を拡大しようと試みているのだ。

 サラワク州では2月28日から、サバ州では3月1日から、従来の中国に加え韓国からの入境禁止措置に踏み切った。この措置に該当したのだろうか。29日には台湾からの教育界代表団のサラワク州入りが阻まれたと伝えられた。台湾政府は外交ルートを通じて「台湾は中国の一部ではなくではなく、新型コロナウイルス感染防止に奏功していること」を強調した。じつは移民・税関業務に関してはサバ、サラワク両州は中央政府から独立したシステムを採用しており、中央政府としても両州の台湾からの入境阻止を撤回させることは困難なようだ。

 ところが3日になってサラワク州政府は「台湾は中国(香港・マカオを含む)の一部ではない」との見解を明らかにし、台湾からの入境を認めた。

 ところが、ところが再びドンデン返しである。

 翌4日、サラワク州政府は再び台湾を中国の一部とし、台湾からの入境禁止措置を明らかにしたのである。その裏に中国からの猛抗議があったことは想像に難くない。

 東マレーシアの地方政府を舞台に日替わり状態で変化する台湾からの入境者に対する措置から、新型コロナウイルス問題を機に一層の激しさを増す台湾と中国との対立が、じつは台湾海峡を挟んだだけのものではなく、広く東南アジアを巻き込んだものであることを浮かび上がらせてくれる。もはや問題は保健・衛生問題の範疇を遥かに超え、安全保障の領域に踏み込んだことを理解すべきだ。

 であればこそ、我が国も国内対策のみをヒステリックに議論し合っている場合ではないことを、改めて強く主張しておきたい。(3月8日記)

  
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