食の安全 常識・非常識

2020年3月13日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

実験を経て、角食パンに限り使用

 ただし、使用する際には、焼いたあとのパンに残存しないようにしなければなりません。山崎製パンは、厳しい製造管理マニュアルを策定しています。まず、臭素酸カリウムを使用するのは角食パンのみ。「超芳醇」と「特撰 超芳醇」から使い始めます。

 角食パンは、容器にパン生地を入れて蓋をして焼くため、オーブン内で生地の温度がゆっくりと上昇し、その間に臭素酸の分解が促進されて、発がん性も毒性もない臭化物に変わります。一方、山型食パンやロールパンのように蓋のないパンは、オーブン内で一気に温度が上がるので、臭素酸がそのまま残ってしまいがち。

 こうしたことを実験で確認し論文でも発表し、確実に臭素酸が分解される角食パンにのみ臭素酸カリウムを用いることにしたのです。

山形食パンでは、30秒で温度が70℃に到達するのに対し、角形食パンは4分かかる。この4分間に臭素酸が分解されて臭化物に変わる
(出典:山崎製パンウェブページ)

 また、「製造現場で間違って臭素酸カリウムを入れすぎてしまった」というようなミスが起きないように、臭素酸カリウムは必ず工場の「検査室」で秤量、分注し、それを製造ラインで使うやり方をとります。仮に3倍量を使っても、焼いたパンには残存しないと確認済み。そもそも、2倍量を使ってしまったら、生地が膨らみすぎて異常がすぐにわかり、誤使用はあり得ないそうです。

 焼き上がったパンは、定期的にサンプリングして臭素酸が残っていないことを確認します。2004年から14年まで使用した時には、全部で1万点以上を調べたそうですが、1点も残存していませんでした。この3月の使用再開後も、こうした定期検査が行われます。

水道水の基準と比較すると……

 それにしても、です。「残存しない限り、発がん物質を食べることにはならない」と頭ではわかっていても、わざわざ添加物として使うことに抵抗感を持つ人はいるでしょう。実際、諸外国でも判断はまちまち。米国では使われていますが、EUや中国では使用されていません。国内でも、日本生活協同組合連合会は「不使用添加物」としています。「残留は検出限界未満であり実際の健康リスクは非常に低い」と記述しつつも、使わないとしています。

 「検出限界未満」というところに引っかかる人もいます。パンに含まれる臭素酸が検出限界の0.5ppbを下回っていれば「残留しない」と判断されますが、含有量ゼロの保証はありません。使わなければ摂取を完全なゼロにできるのだから、「わざわざ添加物として使うなどもってのほか」という意見もあります。

 一方で、科学的には別の見方ができます。実は臭素酸は水道水にも含まれます。水の消毒時などに生成するのです。そのため、水道水には臭素酸として10ppb以下という基準が設けられています。ミネラルウォーターも同じ基準です。

 水を飲むときに許容されている数字に比べて、パンで守らなければいけない「検出されない=0.5ppb未満」は、20分の1以下なのです。

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