食の安全 常識・非常識

2020年3月13日

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松永和紀 (まつなが・わき)

科学ジャーナリスト

1963年生まれ。89年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち、フリーの科学ジャーナリストに。主な著書は『踊る「食の安全」 農薬から見える日本の食卓』(家の光協会)、『食の安全と環境 「気分のエコ」にはだまされない』(日本評論社)、『効かない健康食品 危ない天然・自然』(光文社新書)など。『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同)で科学ジャーナリスト賞受賞。「第三者委員会報告書格付け委員会」にも加わり、企業の第三者報告書にも目を光らせている。

 こうした紆余曲折の背景にあったのは、残存するかどうかを測定する分析方法の精度の問題です。以前の方法は精度が悪かったのですが、技術の進歩によりレベルアップしました。日本では2003年から、パンに臭素酸として0.5ppb残っていれば検出できる方法で、残存の有無を確認することになりました。0.5ppbというのは、パン1kgあたり0.5μgの臭素酸があるという濃度、極めて微量です。こうした高度な検査で検出されなければ、臭素酸カリウムをパン製造に使ってよい、というのが2003年からの日本のルールです。

 山崎製パンは、臭素酸カリウムの高精度の分析法の研究で、米食品医薬品局(FDA)などとも共同研究を重ね、国際的にも貢献してきました。その技術力を活かし、2004年から14年まで臭素酸カリウムを使っていました。

使用中止は、デマに屈したわけではなかった

 これにより、「ためらわずに添加物をがんがん使う悪質企業」というイメージが、一部の週刊誌や書籍により作り上げられました。また、「山崎製パンがカビないのは、臭素酸カリウムという強い添加物を使っているため」というデマも流れました。臭素酸カリウムは、カビとはまったく関係ありません。大手メーカーのパンがカビにくいのは、工場内の微生物管理が厳しく、焼いた後に冷やしてすぐに包装するため、カビなどの微生物が混入しにくいからです。

 ところが、同社は2014年には使用を中止しました。反対派の批判、デマに屈した、という見方もありましたが、そうではありませんでした。

 実は、臭素酸カリウムの調達が難しくなったのです。2014年当時、国内で添加物規格の臭素酸カリウムを製造していた唯一の企業が、製造を取りやめ。添加物を販売するには、不純物を減らし高度な規格をクリアしなければならず、かなりのコストがかかります。この国内企業の終売により、山崎製パンは、臭素酸カリウムを海外の企業から調達することを検討しましたが、当時は同社の基準を満たす企業・製品が海外にはありませんでした。

 そのためいったん、臭素酸カリウムの使用を取りやめることとしました。その代わり、ほかの原材料・添加物で臭素酸カリウムの機能を代替させるため、さまざまな改善を重ねました。

 しかし、パン作りに「これで終わり。ベスト」という到達点はありません。技術改善を重ねても、臭素酸カリウムも使えばさらによいパンを消費者に届けられるのに、という思いは社員の間で消えなかったそうです。そのため、同社が要求する高いレベルで臭素酸カリウムを製造供給する企業を改めて探し、「これなら」という品質の臭素酸カリウムを海外で見つけました。何度も分析をして、品質が安定的に保たれ確実に生産されることを確認できたため、2020年3月から臭素酸カリウムの使用を再開することになりました。

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