新型コロナウイルスの感染状況について、中国・湖北省や韓国などの感染予測を行ってきた台湾大学化学部の徐丞志准教授が、日本の公式統計から、感染症数理モデルを使って日本の新型コロナウイルスの感染者数の今度の動向について試算を行った。
その結果、「悲観的シナリオ」としては、
徐氏は生物医学が専門で公衆衛生や感染症の専門家ではないが、1月から新型コロナの拡大予測を学生向けに解説し、フェイスブックなどで公表してきたところ、感染の最初の発生地となった武漢のある中国・湖北省や韓国のケースで予測が的中に近い形となり、英雑誌『エコノミスト』にも紹介され、台湾のメディアなどから注目されるようになった。
今回は「隣国の日本については台湾でも非常に関心が高く、日本の状況を知ってもらうことに役立てれば」という考えで、日本の厚労省統計などに基づいて感染症の流行過程を算出する古典的なSIRモデルを使用して検証した。
日本では、18日に全国の感染者が1万人を超え、連日、400人〜700人程度の感染者の発生が続いており、感染拡大の下降局面をなかなか作り出せないで苦しんでいる。緊急事態宣言の対象都道府県も、16日から東京など7都府県から全国すべてに拡大された。
徐氏が算出した「楽観的シナリオ」によれば、日本の感染のピークは4月16日となり、累計の感染者数は2万人以上に達するとされる。一方、「悲観的シナリオ」によれば、日本の感染のピークは4月26日になり、1日あたりの感染者は2000人を超え、累計の感染者数は5万人以上に達すると見ている。
徐氏は「いまの状況を見る限り、日本は第二の湖北省になる可能性があるが、それ以上に被害が深刻化しているイタリアや米国のようにはならないだろう」としながら、今後、日本でのさらなる感染拡大は不可避だと見ている。その理由は「日本では、湖北省のように厳格な都市封鎖(ロックダウン)をしていないうえ、韓国のように大規模な検査と隔離も行っていないので、人から人への感染が中韓よりも長く続くと見られる」からだという。
湖北省の感染者数は当初急激な伸びを見せたが、その後、ロックダウンの効果もあって落ち着きを見せ、ロックダウンも解除され、省全体の感染者総数は約6万8000人となっている。
現状では、悲観的シナリオでも楽観的シナリオでも、日本としての感染拡大が不可避である以上、「被害をできるだけ抑えていく『減災』の取り組みで国民の健康を守っていくしかないでしょう」と徐氏は指摘している。
徐氏が特に心配するのが、日本の目に見えない感染の広がりだ。
日本では、最近ようやくPCR検査数を一定のペースで増やしているが、陽性率はなお高いままで止まっている。
この点について徐氏は「即座に大掛かりな検査の拡大をして、潜在的な感染源を可能な限り探し出し、予防的隔離を講じることが求められます。最近の日本の厚労省の統計によれば検査数はこの1週間ほど増加しており、一定の改善が見られます。しかし、ここ2週間の陽性率は1カ月前の陽性率よりも高くなっています。このことは、水面下で感染の拡大が進んで、日本国内に未確認感染者が大量に存在する可能性があることを示しています」と指摘している。
「日本は感染の大規模拡大の前半期にあたると思われます。例えば米国のニューヨーク州は3月下旬に毎日検査を7000件行って陽性率は2割でした。4月上旬になって毎日の検査を2万5000件に引き上げたところ、陽性率は4割と逆に上がりました。日本も似たような状況にあると思われます」(徐氏)
東京では医師会などを中心にPCR検査を拡充させていく方針をようやく打ち出しているが、徐氏はこう語る。
「世界的にPCR検査は検査キットの供給不足問題があり、日本は、まず確度のやや落ちる検査技術の導入を行い、感染が疑わしい擬似感染者を見つけ出し、引っかかった対象者に対してPCR検査を行うという二段階の検査体制を構築することしかないのではないでしょうか」