「3密」状態での出勤
2つの仕事は昼間でもあるが、留学生の場合は夜勤が働くケースが多い。日本人が敬遠し、しかも夜勤だと時給が割増になるからだ。1年近く弁当工場で働いた経験のあるベトナム人留学生、タン君が言う。
「工場のラインに立って、弁当の容器におかずを詰めていく作業が徹夜で続くのです。体力的にはもちろん、精神的にも頭がおかしくなってくる。二度とやりたくない仕事です」
弁当工場は郊外にあるケースが多く、留学生は電車やバスを乗り継いで通うことになる。タン君の場合も、日本語学校の寮がある東京都内から2時間近くかけ弁当工場へ通っていた。
「最寄り駅からは、人材派遣業者のマイクロバスで工場まで向かっていました。乗っているのは皆、留学生だけでした。20人くらいで満員のバスに揺られていくのです」
まさに「3密」状態での出勤だ。工場のラインもアルバイト同士の距離が近い。新型コロナの感染リスクも高いに違いない。そもそも留学生が暮らす日本語学校の寮などは、1部屋に数人が押し込まれているケースがよくある。
そんな危険な環境で働いても、「週28時間以内」のアルバイトでは日本での留学生活は成り立たない。時給1000円であれば、月収は11万円少々にしかならないのだ。それでも生活はできるが、留学生たちは翌年分の学費を貯め、借金も返していく必要がある。そのためアルバイトをかけ持ちし、法定上限を超えて働くしか選択肢がない。
アルバイトをかけ持ちする留学生の多さは、政府のデータでも証明済みだ。たとえば、ベトナム人の場合、厚生労働省がまとめた「外国人雇用状況」によると2019年10月末時点で13万893人の留学生がアルバイトに就いている。一方、ベトナム人留学生の数は同年末時点で8万2266人だ。つまり、1人が平均1.6のアルバイトをしている。
1つのアルバイトで「週28時間以内」の上限いっぱい働いているとは限らない。だが、長く留学生たちを取材してきた筆者の経験から、新興国出身の留学生は週40〜50時間はごく普通に働いていると断言できる。
警察や入管当局も、留学生の違法就労には目を光らせ始めている。しかし、違法就労が発覚しても、罪に問われるのは留学生だけだ。彼らを雇っている企業は、1つの職場で「週28時間以内」で働かせている限り、咎められることはない。底辺労働者を求める企業にとっては、実に都合のよいシステムである。
「週28時間以内」を超える違法就労は、留学生がビザを更新する際に発覚するケースが多い。入管当局に提出する納税証明書などによって、法定上限を超えるアルバイトがバレてしまうのだ。ビザの更新が不許可となれば、留学生は母国に帰国するしかない。留学費用の借金を抱えたまま、また在籍する学校に前払いした1年分の学費を取り返せず、日本を去っていく留学生も最近は目立つ。日本人の嫌がる底辺労働に利用された揚げ句、使い捨てられているわけだ。
弁当工場や宅配便の仕分け現場の他にも、ホテルの掃除や新聞配達といった職種でも留学生頼みは著しい。留学生の労働力がなくなれば、コンビニやスーパーで売られる格安弁当の値段は確実に値上がりする。宅配便の「翌日配送」サービスも維持できなくなるかもしれない。新聞配達が困難になる地域も出るだろう。
日本人が享受している世界で最も「便利で安価な暮らし」は、留学生たちの低賃金・重労働に支えられている。借金漬けで来日している彼らに、違法就労まで強いてのことだ。そんな実態は、コロナ禍の現在も何ひとつ変わってはいない。
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