2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年6月22日

“支離滅裂な”演説

 大統領の演説自体も「国が直面している危機に対処しない支離滅裂なもの」(同)だった。大統領は「今後5カ月後には寝ぼけたジョー(バイデン氏)を叩きのめす」と対決姿勢を示し、「わが党は(奴隷を開放した)リンカーンの党であり、法と秩序の党だ」と胸を張ってみせたものの、政治問題に発展している人種差別の緊張を和らげる言葉を発することはなかった。

 逆に黒人の暴行死に端を発した抗議デモを一様に「左派過激派」と呼び、「彼らは極めて暴力的な人々であり、歴史的な記念碑などを破壊している。彼ら狂人が町に繰り出すのを見たら、武装するのは全く正しいことだ」と対立を煽り、大統領として国民を融和させる姿勢は見せなかった。

 大統領は集会の前日、集会に合わせて予定されていた反トランプデモに対し、「ニューヨークなど他の場所で受けた(甘い)対応とは異なる光景になる」などと威嚇、けん制していた。実際には、集会時に会場の外で行われたデモは数百人と小規模で、平和的なものだった。

 コロナ禍について、大統領は“中国ウイルス”と呼んで中国をあらためて非難する一方、自分のコロナ対応を「驚異的な仕事」と自賛。さらに驚いたことに、国内の感染者数がこれ以上伸びないよう、ウイルス検査の速度を遅らせるよう指示したことも明らかにした。

 大統領自身マスクの着用を拒否し、集会でもマスクは着けなかった。集会に当たっては市当局の懸念に配慮し、入場者の体温検査を実施し、マスクを配布したが、会場でマスクをしている支持者は少なかった。

 トランプ氏がマスクをしないのは、コロナ禍が続いていることを国民に印象付けるのを嫌がっているとされるが、ワシントン・ポストによると、国民の4分の3はマスク着用を支持、共和党支持者でも3分の2が着用に賛同しており、トランプ氏のマスク拒否は与党内でももはや少数派だ。

 集会で大統領が気を遣った問題に自身の健康不安説がある。大統領は最近の陸軍士官学校卒業式でステージから降りる際、足取りが覚束なかったことについて、足元が滑りやすかったとあらためて強調。また水を飲む時、両手を使わないとコップを口元まで上げられなかった点について、「ネクタイを汚すのが嫌だったから」と弁明し、片手で水を飲んで見せた。さらに自らの健康不安説を打ち消そうとしたのか、「バイデン氏に何か健康上の問題がある」とライバルの体調に言及した。

 トランプ氏は今後も遊説を続け、支持者らに直接話しかける戦略だが、ニューヨーク連邦地検検事の解任問題に加え、ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障問題担当)の内幕暴露本の出版が控えており、苦しい立場が当面続くのは間違いない。特にボルトン氏の暴露本は大統領が再選支援を中国の習近平国家主席に要請したことなどを赤裸々に描写しているとされ、大統領はさらなる支持率低下に悩むことになりそうだ。

  
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