世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年8月10日

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 中国は香港にある台湾代表処(台北経済文化弁事処。事実上、総領事館に相当する)を香港から追放するため、種々の圧力を加えようとしている。在外公館の閉鎖をめぐっては、ヒューストンにある中国総領事館、成都にある米国総領事館をめぐり、米中間で熾烈な対抗措置がとられたばかりである。

tang90246/iStock / Getty Images Plus

 今回の香港をめぐる台湾代表処の閉鎖問題は、予想し得たところであるが、米中関係の中台関係への直接的波及の結果であろう。同時に中国からすれば、まず、香港に「香港国家安全維持法」を施行して香港の民主派を締め上げ、その先に対台湾強硬策を取ることを想定しているにちがいない。

 中国が香港の台湾代表処を事実上追放したことについては、7月21日付のブルームバーグが、香港が中台間の角逐(かくちく)の最前線となっていることを描写する解説記事を掲載している。ブルームバーグの論評は、いまだ十分に公表されていない香港をめぐる中台間のやり取りを記述したものである。

 中国の立場は、蔡英文政権に対し、もし、台湾当局が代表処を香港に維持したいのであれば、代表処関係者は「一つの中国の原則」にサインすべし、さもなければ代表処を閉鎖して香港から立ち去るべし、というものである。

 蔡英文民進党政権としては、台湾はすでに主権の確立した独立国家である、との立場を明確にしつつも、いたずらに中国を刺激・挑発しないように「現状維持」の路線を維持するとしつつ、香港からの政治的避難民を受け入れるとの立場を公言してきた。

 台湾にとって「一国二制度」下の香港はこれまで中国・台湾間の「緩衝地帯」としての役割を果たしてきたといえる。しかし、「香港国家安全維持法」が成立した後の香港は、台湾にとって、「もう一つの中国の都市」にすぎなくなってしまった、というブルームバーグの記事の指摘はその通りであろう。

 台湾としては、今後、香港からの政治的亡命者をどのような基準で、何人ぐらい受け入れることになるのか、注目される点である。

 目下のところ、台湾と香港の間の人的往来を見れば、旅行者、留学生、移住者などを含め、年間約650万人の人々の行き来があると報じられている(台湾の総人口は2300万人)。

 台湾経済と中国経済の相互依存関係はすでに高いレベルに達しているが、台湾の対中国輸出のうち、香港の占める割合はそのうちの約30%であり、実質的に大きな額を占めている。台湾にとっては、香港のみならず、中国との貿易、投資関係全般について、いかに依存度をより低いものに切り替えていくかは、長年にわたり、喫緊の課題となってきた。

 蔡英文政権下でとられつつある「新南向政策」といわれる東南アジア諸国への台湾企業の移行や台湾への回帰などについては、徐々に進みつつあるとの報道もなされているが、実際に今日、どのように変化しつつあるのか、台湾当局の発表を聞きたいところである。

 最近、台湾メディアのなかでよく議論されていることとして「出来るだけ香港へ行かないようにすること」というのがある。香港をめぐっては、すでに、米国、英国、カナダ、豪州などが、中国との間にあった既存の「犯罪人相互引き渡し条約」の破棄を通報したが、それは、「国家安全法」の施行されるようになった香港では、外国人がいつ恣意的に逮捕され、中国に移送されるか分からないという状況が背後にあるからにちがいない。

  
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