2024年11月22日(金)

From LA

2020年9月9日

アメリカ的ではない教育を行う学校区に
連邦政府による助成金を打ち切る

 もちろんこのプロジェクトについては賛否両論がある。奴隷制度があったからと言って、米国の建国の精神である自由と平等を全否定することへの反論もあれば、黒人が奴隷として連れてこられたのが真の建国という主張は、土地を奪われた先住民には納得できないものだ、という意見もある。しかしこうした歴史観を教えることで子供たちが歴史とは何か、これまで白人側の視点から語られてきた米国史に様々な見方があることを考えさせるきっかけになる、と1619プロジェクトを教育カリキュラムに加える学校区もある。特にカリフォルニア州でその傾向が強く見られるのだ。

 しかしこれに噛みついたのがトランプ大統領だ。9月6日、大統領はツイッターで「教育省に学校の現場について調査を行うよう要請する。アメリカ的ではない(un-American)こうした教育を行う学校区に対し、連邦政府による助成金を打ち切ることも考えている」との警告を発した。

 この警告に先立ち、大統領は4日にも政府系機関に対し、「人種問題に絡む従業員教育などに予算を割くことを禁じる」とも発言している。米国の企業では研修などで人種差別などセンシティブな問題についての対応などを教育するところが多いが、こうした教育は不必要であり、時間と予算の無駄、というのが大統領の考え方だ。 

 大統領は共和党大会での大統領候補指名受諾演説でも「米国人は政治的な言葉の変遷など、あらゆる変化に疲弊している。しかもこうしたルールは常に変化している。我々は子供たちに米国が世界の歴史の中で最も偉大で例外的な存在である、という真実を伝えていかなければならない」などと語った。要するに政治的に正しい表現、ということでこれまで使われていた言葉が差別的である、と撤廃されたりする世の中にモノ申し、ありのままの米国こそが偉大、と言いたいのだ。

 この大統領の主張に共感する人々ももちろん存在する。それも含めて1619プロジェクトを議論することは意義のないことではないが、共和党色の強い州では教育委員会に対し1619プロジェクトを公立学校のカリキュラムに加えることを禁じているところもある。この問題、今後言論の自由、教育の機会均等といった問題と絡めて大統領選挙の争点の一つに発展するかもしれない。

  
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