2024年11月22日(金)

WEDGE REPORT

2020年9月18日

米中大国間競争時代における
日本の立ち位置

 米中大国間競争時代は、日本の経済界に大きな衝撃をもたらすことになる。中国はソ連とは異なる。中国経済の規模は、世界GNI(国民総所得)の15パーセントを超える。中国は、日本をはじめ多くの国にとって第一位の貿易相手国である。中国国内には、外国企業のサプライチェーンが毛細血管のように張り巡らされている。GAFAのようなプラットフォーム系の企業は情報統制の厳しい中国から締め出されているので問題はないであろうが、日本企業のように中国に深く根を下ろした製造関係の企業の多くは、米中対立の時代には頭を抱えざるを得ない。経済と安保が結びついたからである。

 日本の立ち位置は明らかである。「安保は同盟、経済は中立」というわけにはいかない。軍事的には中国が強大になればなるほど、日本は米国との距離を縮めざるを得ない。中国の真横にある日本は、米国と切れれば中国に何をされても抵抗できない。米中大国間競争時代には、米国と協調して中国との戦略的均衡を維持し、アジアの安定を維持することが、日本の安全と繁栄の前提だ。日本の経済界には、これまで以上にこうした視点を持つことが欠かせなくなっていると言えるだろう。

矢継ぎ早の対中措置
アメリカの狙いは?

 現在、米国が、既に足早に打ってきている対中経済措置が何を狙っているのか。日本は何をどう協力すればよいのか。アメリカ・ファーストを掲げるトランプ政権の動きは独断的であり、対中措置の内容も厳しい。香港、チベット、ウイグル等の人権問題に厳しい米議会も動き始めた。政府の中では、1987年の東芝機械ココム違反事件の悪夢が甦(よみがえ)った。米国の虎の尾を踏まぬよう、日本としても早急に対応を取りまとめていかなくてはならなくなった。そこで総理官邸に創られたのが国家安全保障局経済班である。

 米政府は、基礎研究から開発までを含めて、先端民生技術の対中流出に過敏になっているが、特に神経を尖らせているのが、情報通信に係る産業基盤への中国勢の技術的侵食だ。米国防総省の予算は80兆円であり世界GNIの1パーセントに相当する。その研究開発費は約11兆円で、日本の防衛費の倍の大きさである。ペンタゴンは、圧倒的な資金力と技術力で、世界の軍事技術のみならず民生技術もリードしてきた。インターネットの誕生はその典型である。しかし、GAFA、BATと呼ばれる米中の巨大プラットフォーム企業は、初めて資金力、技術力で米国防総省に追いつこうとしている。今や、逆に民間の技術の方が、世界の安全保障環境を大きく変える時代になったのである。この分野の中国勢の台頭は、ファーウェイのハイシリコンに代表されるように、目覚ましいものがある。

 5G問題では、米国は、ファイブアイズの姉妹国である英国に、ファーウェイ製品を排除させた。最先端の半導体製造技術を持つ台湾のTSMCに、ファーウェイとの取引をやめさせた。米商務省は、輸出管理法に基づいてファーウェイ等に米国製品の付加価値が25パーセントを超える部品の供給を禁じた。中国共産党の支配下の企業は、米国でのドル調達ができなくなった。米国は本気である。

 トランプ政権の対中規制措置は、強力だが、パッチワーク的な政策の乱打に見える。「俺についてくればよい」というワンマンなリーダーシップである。しかし、真に有効な対中技術流出阻止を考えるのであれば西側諸国全体をリードする戦略がいる。米国は、今後、一層、西側同盟国の協力を必要とする。日米欧の協議を通じて、米国の戦略が体系的に説明され、透明性が確保されることが必要である。


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