2024年5月3日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年9月22日

 共和党内部には、「リバタリアン」(原理主義的自由主義派)と「保守派」が共存しており、市場が良好な結果をもたらしていた間は、両者はうまく共存できた。両者とも自由市場を奉じているが、前者にとり自由市場は自己目的、後者にとっては自由主義は手段であり、これが公正な社会的結果をもたらさない場合、政策担当者たちは市場を誘導して公正な結果に導くべきものである。1970年代以降、米国では工業の空洞化が急速に進行すると共に、金融業への依存が昂じ、中産階級の疲弊、格差の増大が目立つようになると、両者の関係にほころびが生じた。ポスト・トランプの共和党においては両者の対立が激しくなる可能性がある。

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 共和党のミット・ロムニー上院議員、マルコ・ルビオ上院議員ら共和党穏健派のアドバイザーとして働いたことのあるコンサルタントOren Cassは、9月3日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘Republican party battles over its post-Trumpian soul’で、トランプが去れば共和党を一つにつなぎ留めておくものがなくなってしまうと指摘、両派のイデオロギー対立の激化により共和党がアイデンティティ危機に陥ることを示唆している。論説によれば、リバタリアン派はトランプの市場への介入の成功を一回性のものと考え、彼の後にはレーガン的な自由市場政策に戻れるものと考えがちであるのに対し、保守派はトランプの成功をもたらした困窮白人中間層の問題に焦点を当て、市場メカニズムのどこが悪かったのか、どうすればそれを正すことができるかを考えている。この対立は、資金とパワーの主導権争いと相まって、抜き差しならないものであるらしい。

 この論説が論じている共和党だけでなく、民主党においてもイデオロギー対立が内部を引き裂く要因となっている。民主党では、自由・民主の理念をうたいつつ、裏では金融・IT大手に資金面で依存するクリントンに類する一派と、北欧社会主義的な分配重視のサンダース、ウォレン両上院議員のような一派の間の対立である。製造業が海外に流出したことで、民主党の資金源であった労組が衰退したことがこの背景にあるだろう。

 戦後米国社会の変化は、共和・民主両党に深刻な問題を投げかけているのである。単純なことを言えば、両党が解党して自由主義派政党と社会主義派政党に再編成すればわかりやすいのだが、それでは社会主義派政党は資金源を欠くだろうし、各選挙区での政治・利権構図の現状変更もたやすいものではない。

 共和党では、大統領選前にトランプを引きずりおろそうとする動きもあったが、彼が党大会での指名を得た今となっては万事休すであろう。そしてトランプ再選の有無にかかわらず、上記論説が示唆するように、共和党は空洞化、極端な場合雲散霧消の危機にさらされることになる。「小さな政府」(つまり法人税減税)を求める大企業が「茶会派」議員を通じて共和党を牛耳っていたところにトランプが横入りして党を簒奪、企業側はそれを黙認してトランプに大減税を実現させ、「あとは知らない」というのが現状なのである。「茶会派」議員に資金を出していたKoch Industriesの当主の一人、David Kochが昨年8月死去したためか、今回の選挙戦での党資金配分ではトランプの娘婿クシュナーが大きな発言権を行使し、資金の回らない議員は不満を高めていると報じられている。これは、まさに、共和党の直面する危機を如実に表している。

 政党の在り方が社会の現実と齟齬を生じ、きしみを立てている。どの国でもある問題だし、米国における政党も離合集散を繰り返してきた。これからどうなっていくか、まだわからない。

  
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