2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2020年9月28日

「謎の手拍子」

 何でこのような話をここで持ち出したかと言えば、たまたま今場所中に観戦した知人がすぐそばで〝この方〟を2階席で目撃したからである。場内が静まり返っている妙なタイミングにおいて1人だけ「パン、パン」だったり、あるいは「パ、パン」「パンパンパン」だったり…という調子で大半の人からすれば明らかに不可解な手拍子を繰り返しているという。

 だから当然のごとく大きく響き渡り、周囲が奇異の目を向け、時には土俵上の力士からも「えっ?」という仕草とともに視線を投げかけるシーンもあったようだ。この「謎の手拍子」がとても気になって他の関係者にも聞いてみたところ、複数の筋から「7月場所でも観戦に訪れ、明らかに静まり返っているところで自分1人だけ目立つように手を叩いていた」との証言を得られた。

 この「謎の手拍子」についてはSNSやネット上のコメントを見る限り、話題に取り上げている人の間で大半が不快感を覚えているようだ。ただし厳密に言えば拍手(手拍子)そのものはOKなのだから、この行為は禁止されているわけでない。もしかしたら〝この方〟は声援を送りたくてもできないというもどかしさがあり、自分の繰り出す手拍子だけを何としてでも土俵上の力士の耳に伝えたいと思ってあえて場内が静かなタイミングを狙って繰り出しているのかもしれない。

 しかしながら仮にガイドラインに記されていなければ何をやっても構わないという主張であるならばやはりデリカシーに欠け、観戦マナーで言うと「?」を付けざるを得ない。コロナ前にはスポーツの試合やイベントで場内が静まり返っている時、あえて自分だけ目立つように「〇〇、頑張れ!」などと声援を送る人は確かに割と多くいた。しかし、それも許されるのはケースバイケースである。明らかに謎のタイミングだったり、意味不明な内容の声援だったりすれば空気を読めない行為として受け取られてしまうのは明白だ。しかも声援と比べ、手拍子は周囲のとらえられ方がまったく異なる。

 特に「新しい生活様式」となった有観客の大相撲は場内が静かになっている際には時として花道を歩く呼出しの草履の音までも2階席にまで聞こえるぐらいの環境下なのだから、そんなタイミングにおいて1人で手拍子を繰り出せば〝浮いてしまう〟ことぐらい容易に想像がつくだろう。前記した実例でも報告として上がっていた点を考察すれば、これから先も同じようなことがあると土俵上の力士の集中力に何らかの悪影響を与える危険性が出てきてしまうかもしれない。

 「ウィズコロナ」の時代の中、スポーツ観戦に訪れた人たちも皆が平時と異なる環境下にストレスを感じつつ、本来ならばやりたいことをグッと我慢しながら協調性を持ってマナーを厳守している。たとえガイドラインに記されていないことであろうと少なくとも周りの目を気にし、他人の立場に立って迷惑だと思われるような行動はやはり慎むべきであると個人的には考える。

 今場所の正代優勝でまた新たな時代の扉が開いたことを踏まえつつ、日本相撲協会は「新しい生活様式」の中でより多くの人たちに安心しながら楽しんでもらえるような観戦スタイルの再整備にもどうか力を入れて欲しい。

  
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