原子力発電所の新設を進める英国政府
英国は輸入を含めた電力供給の内約15%を原子力発電に依存している(図-2)国だが、最も新しい設備でも運転開始は1989年、30年以上前だ。温暖化対策も考えると新設が急がれることとなり、英国政府は計画を進めている。その第一号が現在工事が進められているヒンクリーポイントC発電所だ。設備能力は、1,2号機合わせ344万kW、英国の電力需要の7%、8%を賄うことになる大型プロジェクトだ。1号機は25年、2号機は26年運転開始予定になっている。
この建設に際し開発主体EDF(フランス電力)と英国政府間では発電された電力を35年間にわたり1000kW時当たり92.5ポンド(12.5円/kW時)にて買い取るCfD(差額保証契約)と呼ばれる契約が締結されている。当初の建設予定費180億ポンド(昨年9月の見直しで215億から225億ポンド‐約3兆円に修正されている)に対し810億ポンド(10.9兆円)が支払われることになり、高収益を保証しているとの批判もあったが、開発主体も大きなリスクを取っている。
英国政府との契約の詳細は開示されていないが、リスクとして考えられるのは工費の増大と工期の遅れだ。完成予定から4年経てば、自動的に35年契約が開始されることになり、工期が4年以上遅れれば支払期間が徐々に短くなる。加えて工期が8年遅れればCfDの保証がなくなる条項があると言われている。EDFが手掛けるヒンクリーポイントCと同型のEPR(欧州加圧水型炉)の建設は、中国では既に2基が予定通り完成し稼働しているものの、フィンランド、フランスの建設工事は予定より大幅に工期が伸びている。
中国広核集団(CGN)が2015年ヒンクリーポイントC の33.5%の権益を取得すると発表したが、政治体制が異なる国が基幹エネルギーの権益を取得することが問題となり、英国政府の承認にはほぼ1年を要した。同時に中国企業が、今後英国にて新規原発の建設を主体的に進めることも認められたが、英中間に隙間風が吹き始めたため先行きは不透明になってきた。
日立の撤退と英国電力供給の今後
ウィルヴァ原発に関する日立への英国政府提案は次の内容だったと報道されている。
① 英国政府が3分の1の権益を取得する
② 英国政府が建設資金を融資する
③ CfDの価格として1000kW時当たり75ポンド(10.1円/kW時)を保証する
英国政府は、ヒースロー空港拡張、水道事業のインフラ投資に利用した規制資産ベース(RAB)モデルも検討したが、日立への提案はなかったとされる。RABモデルでは建設中の費用も利用者から徴収することになるので、投資額が上振れした際には電気料金上昇を招く点が問題だったのだろう。
上述の英国政府提案でも日立は建設に踏み切れなかったことから、英国政府が建設を行い事業者への設備譲渡も検討すべき段階にきているとの報道もあった。ヒンクリーポイントCの建設を行っているEDF、CGNともに国営企業であることから、これからは国がバックについていなければリスクを取ることは難しいとの声もでている。今後の英国の原発計画には全て中国CGNが関与(表-1)しているが、中国企業を関与させるべきではないとの声も強くなってきた。
香港国家安全維持法、新型コロナの初期段階での情報隠し報道、ウイグル問題などで中国に対するイメージが悪化していることに加え、中国の関与により知的財産・原子力技術流出、企業に悪影響を及ぼす懸念があるので、中国企業の参加については見直すべきと保守派政治家などから指摘された。英国政府は5G通信網からファーウェイ排除を決めたのに続き、CGN主導のブラッドウエルB原発建設についても見直す計画と報道されている。逆に、中国が英国の原子力発電事業への投資を取りやめるとの報道もあり、今後の英国の原発建設には不透明感が漂い、英国政府は悩みを深めそうだ。