2024年11月21日(木)

安保激変

2012年8月16日

見えない「落としどころ」

 だが、民主党の方針が現状維持だとしても、日中間の暗黙の了解が崩れてしまった以上、落としどころが見えない状況は続いている。中国政府関係者は、尖閣が安保条約の対象だというクリントン発言に勇気づけられた日本が、本格的に尖閣の実効支配を強めようとしていると口をそろえる。中には、アメリカが日本を操って尖閣をめぐって中国と対立させ、中国の封じ込めを強化しようとしていると本気で信じている専門家もいる。最近、人民解放軍の高官が尖閣に関して強硬な発言を繰り返しているが、このように中国で広がる「日本脅威論」がその背景にある。だが、人民解放軍関係者は、尖閣をめぐって自衛隊と対決すれば負けることはわかっている。人民解放軍に日本と戦争をしてまで尖閣を取るつもりなどないのだ。

 事態をさらに悪化させたのが、石原都知事による尖閣購入計画だ。この計画は現状維持を最善とする日本政府と中国政府の双方に対する挑戦である。日本政府としては、対中強硬姿勢を求める世論を考えればこの購入計画に表立って反対することはできない。一方、中国政府からすれば、日本が一丸となって尖閣の支配を確立しようとしているようにしか見えない。

危機管理体制の確立を

 日中双方に尖閣の実効支配を強化する意志がないとしても、互いの取る行動の一つ一つが相手には強硬姿勢に見えてしまう。まさに、暗黙の了解を失った日中の誤解と相互不信が今の危機につながっているのだ。戦争とは往々にしてこのような誤解や相互不信から始まる。双方ともその意志はないのにしてしまう。それが戦争である。

 日中間の誤解と相互不信を和らげるために、まずは危機管理体制の確立が求められている。関係部局の現場と中央省庁にホットラインを設置することから始め、海洋調査の事前通報や漁業協定など既存の枠組みの再確認も行い、自衛隊と人民解放軍の直接対話の場も設けるべきである。捜索救難の取り決めや、資源の共同開発の協議も信頼醸成につながる。

 しかし何よりも必要なのは、尖閣に関する落としどころ、つまり尖閣を外交的にどのように取り扱うかという日中間の新たな了解である。双方が互いに世論を刺激するような行動を控え、静かな環境で対話をするしか事態を沈静化する道はないだろう。しかし、今の日中間にはこのような了解を議論する人的交流さえない。そうであれば、日中首脳会談を開いて、双方が自制をするという宣言を出すことが最低限必要ではないだろうか。

「WEDGE Infinity」のメルマガを受け取る(=isMedia会員登録)
「最新記事」や「編集部のおすすめ記事」等、旬な情報をお届けいたします。


新着記事

»もっと見る