2024年12月14日(土)

Wedge REPORT

2020年12月4日

事業の不確実性が増せば
安定供給リスクが増す

 このように、電力システム改革とパッチワーク的な対処によって、名目上さまざまな目的をもった複雑な仕組みが乱立し、全体の整合性がどう取れているのかわからない状態になってしまった。電力事業者は、多くのこうした仕組みと向き合いながら事業を進めなければならず、自由化して参入を促進するはずが、むしろ参入障壁を上げてしまっている。

 しかも、こうした制度上の問題が次々と明らかになればなるほど、制度変更が予見されるため、将来の制度の予見可能性が削がれ、事業の不確実性がさらに増してしまっている。こうしたことも、電力事業そのものの安定性が問題視されるという意味で、将来の安定供給リスクを増している。

 民主党政権時代の負の政策遺産を、できるだけ整合性を保ちつつ現実に合わせようとしてきた行政の努力には頭が下がる。しかし、過去の判断を覆さず、結果責任を恐れるあまり、個々の問題を是正するための「市場」を作り、失敗は「運用上の問題」にするということが繰り返されてきた。その結果、現在のように誰も得しない状態を作り出してしまったのではないか。

 大前提として自由化によりシステムを効率的に最適化する、という理想はわかるが、金融市場や民主主義においてしばしば混乱が起きるように、必ずしも安定が保証されるものではない。また、世の中には市場メカニズムに適さないものもある。例えば、将来の安定供給のために必要な投資を市場で正当に評価するためには、究極は停電した時の電力会社や社会全体にかかる多面的なコストが適正に評価されなければならないが、現実には難しい。地球温暖化対策のコストも同様である。

 やはり、こうしたコストの不確実性が高い課題に関しては、エネルギー政策基本法を改正し、公正な監視の下で行政等が一定の責任と執行権限を持つ必要があるのではないだろうか。自由化を大前提に推し進めてきた政策をひっくり返すことは決して容易ではない。恐らくほとんどの関係者は「それは無理だ」と答えるだろう。電力事業者のある幹部は「国民の関心が低い電力政策を健全化させるには、もはや大停電が起きるしかない」と語った。残念な発言であるが、我々はその時を座して待つしかないのか。国民の意識と政治の覚悟がいま求められている。

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■脱炭素とエネルギー  日本の突破口を示そう
PART 1       パリ協定を理解し脱炭素社会へのイノベーションを起こそう          
DATA            データから読み解く資源小国・日本のエネルギー事情        
PART 2         電力自由化という美名の陰で高まる“安定供給リスク”         
PART 3         温暖化やコロナで広がる懐疑論  深まる溝を埋めるには 
PART 4       数値目標至上主義をやめ独・英の試行錯誤を謙虚に学べ   
COLUMN       進まぬ日本の地熱発電 〝根詰まり〟解消への道筋は   
INTERVIEW  小説『マグマ』の著者が語る 「地熱」に食らいつく危機感をもて  
INTERVIEW  地熱発電分野のブレークスルー  日本でEGS技術の確立を 
PART 5         電力だけでは実現しない  脱炭素社会に必要な三つの視点  
PART 6       「脱炭素」へのたしかな道  再エネと原子力は〝共存共栄〟できる         

  
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◆Wedge2020年12月号より

 

 

 

 


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