事業の不確実性が増せば
安定供給リスクが増す
このように、電力システム改革とパッチワーク的な対処によって、名目上さまざまな目的をもった複雑な仕組みが乱立し、全体の整合性がどう取れているのかわからない状態になってしまった。電力事業者は、多くのこうした仕組みと向き合いながら事業を進めなければならず、自由化して参入を促進するはずが、むしろ参入障壁を上げてしまっている。
しかも、こうした制度上の問題が次々と明らかになればなるほど、制度変更が予見されるため、将来の制度の予見可能性が削がれ、事業の不確実性がさらに増してしまっている。こうしたことも、電力事業そのものの安定性が問題視されるという意味で、将来の安定供給リスクを増している。
民主党政権時代の負の政策遺産を、できるだけ整合性を保ちつつ現実に合わせようとしてきた行政の努力には頭が下がる。しかし、過去の判断を覆さず、結果責任を恐れるあまり、個々の問題を是正するための「市場」を作り、失敗は「運用上の問題」にするということが繰り返されてきた。その結果、現在のように誰も得しない状態を作り出してしまったのではないか。
大前提として自由化によりシステムを効率的に最適化する、という理想はわかるが、金融市場や民主主義においてしばしば混乱が起きるように、必ずしも安定が保証されるものではない。また、世の中には市場メカニズムに適さないものもある。例えば、将来の安定供給のために必要な投資を市場で正当に評価するためには、究極は停電した時の電力会社や社会全体にかかる多面的なコストが適正に評価されなければならないが、現実には難しい。地球温暖化対策のコストも同様である。
やはり、こうしたコストの不確実性が高い課題に関しては、エネルギー政策基本法を改正し、公正な監視の下で行政等が一定の責任と執行権限を持つ必要があるのではないだろうか。自由化を大前提に推し進めてきた政策をひっくり返すことは決して容易ではない。恐らくほとんどの関係者は「それは無理だ」と答えるだろう。電力事業者のある幹部は「国民の関心が低い電力政策を健全化させるには、もはや大停電が起きるしかない」と語った。残念な発言であるが、我々はその時を座して待つしかないのか。国民の意識と政治の覚悟がいま求められている。
■脱炭素とエネルギー 日本の突破口を示そう
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