だからこそ中共は、このような中共中央の指導により「勝利」へ邁進する中国の現実を理解していないと見なした、少数民族・宗教信徒・香港・台湾・民主化や自由化を説く人々への圧迫、さらには迫害を強めている。香港の抗議運動において見られた「今日の新疆は明日の香港」という表現は、この問題を最も直截に示すものである。
そこで筆者が今一度問いかけたいのは、このような中共指導下の中国と積極的な関係を持ち続けることの、商業倫理的な妥当性である。
西側諸国はこれまで、根本的には西側の価値観を信じず、弱肉強食な世界観を保持する中共の本質(90年代に強まった)を見極めることなく、後れた貧しい中国を善意で助ければ、今度こそ中国とより良い関係を構築でき、その中でWin-Win の利益を享受できるという思い込みに安住していた。
しかし中共は、中国の国力増進とともに、国内外の至る所で現状変更の試みを進め、既成事実化しようとしている。中国大陸の華やかな「発展」、そして「脱貧」といった事柄の裏側で、南シナ海の珊瑚礁がいつの間にか軍事基地と化したこと、尖閣諸島への侵入を「中国の海洋法に基づく法執行」と「主張」することと、ウイグル人などトルコ系ムスリムの「中国への忠誠心が足りない」と称して強制収容所に連行すること、香港で国際社会の批判を顧みず唐突に「一国二制度」を事実上終焉させたことは、全く同じ中共中央という核心においてつながっている。
それにもかかわらず日本では、引き続き政治と経済は何とか切り分けることが出来、米中対立の中でも日本が適切に両者との関係を調整すれば、むしろ中国の柔軟な対応を引き出し、グローバルな協力関係を再構築しうると考える向きもある。
このような考えは実は危うい。中共は様々な好条件を持ち出して、対中関係をめぐる外国の積極的な引き出し、さらなる利益を得ることで、西側諸国とは全く異なる世界観に基づく独裁と現状変更の試みをますます強め、西側諸国が守ろうとしてきた人類社会の形を変えようとしている。米国のポンペイオ国務長官が、去る7月23日にニクソン大統領記念館前で発した「自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう」という呼びかけは、中共の現実に照らして全く的を射たものである。中国経済の魅力と引き換えに、中国が諸外国に対して一方的に口封じをし、譲歩を迫る趨勢は明確であり、日本も短期的な経済的利益のために、より長期的な国益と守るべき価値を見失う危機に直面している。
このような時にあたり、日本でも中谷元氏・山尾志桜里氏が共同代表となった超党派の「対中政策に関する国会議員連盟」が発足し、去る12月3日には、周庭氏ら3名への実刑判決に対する非難声明を発表したほか、日本は毅然と日本の主張を展開して主権と価値を守るべきだとした。筆者としても、少しでもこのような動きが広がることで、単に香港の助力となるだけでなく、中国社会全体が中共の価値観とは違った発想により軟着陸することを願うものである。
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