2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2020年12月11日

 また、EU内で議論された30年以降の温室効果ガス削減目標の強化についても、ドイツはポーランド、チェコなどとともに、2年前まで反対に回っていた。その背景には、ドイツが国内に抱える褐炭炭鉱の存在がある。

 ドイツは旧東ドイツ地区に二つ、西ドイツ地区に一つの褐炭炭鉱を保有し、隣接地に発電所を持っている。その発電量シェアは19年実績で19.2%、さらに輸入炭を使用している石炭火力のシェアも9.6%ある。褐炭火力の閉鎖は雇用と地元経済に大きな影響を与えることになるので、温暖化対策を進めるためだとしても、簡単に閉鎖に踏み切ることはできない。

 今年7月、ドイツ議会は38年までにすべての石炭火力発電所を閉鎖することを決定したが、この先18年もかけるのは雇用の問題だけが理由ではない。今「脱石炭」を行えばLNG火力に依存するしか道はなく、その輸入元であるロシアへの依存度を高めざるを得ないというエネルギーセキュリティー上の問題がある。また、政府が脱石炭政策を決めたため、地域や火力発電所を保有する電力会社にも補填がされることとなっている。

 温暖化問題に熱心だと思われているドイツは、実にしたたかに安定供給の問題も考えながらエネルギーミックスの実現に向けて取り組んでいる。

優先課題が明確なイギリス
温暖化対策への切り札は?

 前述したBBCによる世論調査をイギリスで実施すると、原発の即時閉鎖を望む声が15%だったのに対し、新設すべきとの意見が37%もあり、福島第一原発事故後も原発に対する強い支持があったことが分かる。気候変動対策に極めて熱心に取り組んでいるイギリス政府は、この世論を背景に、原発を中心とした非炭素電源設備の導入支援制度を新設する。それが差額保証制度(CfD)と呼ばれる、発電された電気を定額で買い取る制度だ。

 この制度は、フランス電力(EDF)と中国広核集団(CGN)が開発主体である「ヒンクリーポイントC原発」で初めて利用された。東芝と日立の原発事業がこれに続くこととなっていたが、東芝はイギリス事業を19年1月に清算し、日立もイギリス政府と合意することができずに今年の9月に撤退した。

 残る原発建設計画は、EDFとCGNの合弁事業体による4基のみだが、イギリス政府が華為技術(ファーウェイ)を排除したことや中国当局による新疆ウイグル自治区や香港における人権問題などがあったことで、イギリス国内における中国批判の声が強まり、電力供給を中国に任せることに対する危機意識も高まっている。同時に中国がイギリスの原発事業から撤退するとの観測も流れ、原発新設には不透明感が漂ってきた。

 既存の原発の老朽化が進んでいることから、新設が実現しなければ、イギリス政府が目標とする50年の純排出量ゼロの達成は難しくなる。そうした中でジョンソン首相は今年10月、洋上風力発電設備を30年に4000万kW(現在の約4倍)に引き上げるため、港湾設備などに1億6000万ポンド(約220億円)の投資をする計画を発表した。イギリスは風況に恵まれる世界一の洋上風力大国だ。不透明感が漂う原発に代え、得意とする洋上風力により供給を賄うアイデアだ。


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