環境政策で先行する欧州
「脱原発」掲げたドイツの苦悩
福島第一原発事故後の11年11月、英国放送協会(BBC)が主要国の原子力発電に関する世論調査を実施した。05年の同調査との比較では、「原発を直ちに閉鎖」との意見がドイツで26%から52%に倍増し、主要国で唯一50%を超えた。日本では15%から27%に、フランスでは16%から25%に増加したが、日仏で最も多い意見は「既存設備を利用し、新設はしない」だった。反原発の姿勢が顕著だった国民世論を受け、メルケル首相は17基の原発のうち、老朽化していた8基を直ちに閉鎖し、残りを22年までに閉鎖する「脱原発」政策を決定した。
ドイツはエネルギー自給率の向上と温暖化対策に資する再エネ導入に熱心な国だった。00年に再エネの導入支援策として、主要国でいち早く市場価格を上回る固定価格買取制度(FIT)を導入し、風力発電、太陽光発電など再エネ電源の導入を進めていた。停止する原発の代替電源を再エネにし、自給率の維持とCO2の削減を進めることを考えたが、脱原発宣言の後、再エネ政策の綻びが見えてくる。
一つは、電気料金の上昇だ。10年に1kW(㌔ワット)時当たり2ユーロセント(約2.5円)だったFIT負担額は13年に5.3ユーロセント(約6.6円)に達した。ドイツ政府は14年に同制度を見直し、小規模電源を除いてFITによる買い取りを廃止した。
もう一つは、電力供給の問題だった。ドイツの三大自動車メーカーの工場が集中する南部の工業地帯では、原発5基が閉鎖されたことにより電力不足が露呈するようになった。北海、バルト海など比較的安定した風量のある北部で発電された洋上風力の電気を南部へ送電することを試みるも、肝心の送電網が整備されていなかった。
政府は全長7700㌔メートルの送電線の新設と増強を25年までに完成させる計画を立てたが、地主の反対によって、送電線の一部を地下化する動きなどもあり、工事はまだ5分の1程度の進捗にとどまる。工事終了までは北部の余剰電力をポーランドなどの近隣諸国に輸出するしかなく、南部はフランスから原発主体の電力を輸入するしかない。19年の実績ではドイツはフランスから原発2基分に相当する電力輸入を行っている。
温暖化対策も青息吐息だ。再エネ導入のスピードが減速したこともあり、ドイツは新型コロナウイルス感染拡大前に、20年の温室効果ガス削減目標を達成できないと宣言せざるを得なくなった。