2024年4月25日(木)

Washington Files

2020年12月14日

 中国は世界164の国と地域が参加するWTO(世界貿易機関)への加盟に際しても、様々な関税障壁、透明性・公平性欠如などの問題が当初から指摘され、申請から最終的に2001年12月に加盟が認められるまでに15年の歳月を要した。TPPはこのWTOより一段と厳しい条件が課せられているため、中国が加盟申請後、ただちにこれが承認される可能性はきわめて低い。

 ただ、中国はWTO加盟申請当時は、まだ経済規模の小さい発展途上国だったが、今では当時とはくらべものにならないほど実力をつけ、今日ではアメリカに次ぐGDP世界2位の大国にのし上がった。国内市場も爆発的に拡大し、その存在は各国にとって貿易・投資両面で最重要パートナーとなりつつある。

「鬼のいないうちに」という中国の打算

 このため、もし、中国が実際にTPP加盟を申請してきた場合、既加盟国に対する影響力の大きさからみて、日本も含め、拒否権行使は困難になるとみられる。なぜなら、既加盟国のうち、シンガポール、ベトナム、ブルネイのアジア3カ国は中国との結びつきも深く、中国加盟を後押しするのは確実視されるほか、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなども単独で中国加盟を拒み続けるのは容易ではないとみられるからだ。アメリカが抜け「鬼のいないうちに」という打算が中国側にある。

 他方で、既加盟国が中国加盟問題を議論する場合、加盟後のTPPにどのような影響が及ぶかを今の時点から冷静に考えておく必要がある。この点で参考になるのが、WTOの今日の姿だ。

 WTOは今、機能マヒ状態にあるといわれる。加盟国同士の貿易紛争を解決するための裁判機能が十分に果たせなくなっているからだ。その背景にあるのが、アメリカと中国の対立にほかならない。

 中国はWTO加盟以来、輸出競争力向上を目的に国有企業に多額の補助金を拠出してきため、アメリカは低価格の中国製品が米国市場にあふれ、米国内産業が打撃を受けてきたとしてWTOの紛争処理委員会に提訴してきた。しかし、紛争処理のための裁判所役を務める上級委員会では、中国の意を受けた委員多数がアメリカに不利な裁定を下すケースが出てきたため、アメリカはトランプ政権発足後、WTOそのものからの離脱を示唆するなど大きな波紋を投げかけてきた。

 そもそも、WTOのルールは、発足当初は、中国のような、大規模な国家資本主義国家を想定したものではなかった。しかし、その中国が加盟、その後存在感を高めるに至って、WTOルールが時代に合わなくなり、WTOの機能不全に陥ったという側面がある。

 また、こうした流れの中で、今年7月、WTO最高責任者のアゼベド事務局長が突然、任期途中で退任を表明、急遽、後任選びで難航が続いている。今のところ、イギリス、メキシコ、韓国などの諸国から8人が立候補を表明する中で、途上国へのプレゼンスを拡大しつつある中国との関係が近いアフリカ出身の女性2人が有望視されており、ここでも米中両国が火花を散らしている状態だ。


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