買うだけ買って
放置される土地が各地に
カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐり、中国企業役員が衆議院議員らに現金を提供したとする汚職事件の捜査が進む20年初め、知人の中国事情通から「IR参入は口実で、中国資本の真の狙いは、北海道内に居留区を確保することだ。背後に中国共産党がついていて、すべて計画通り」という連絡が入った。
彼は、筆者が中国資本による国土買収の実態取材を始めて以降、情報提供や分析を通して協力してくれている1人だ。彼の証言は唐突過ぎ、一瞬、首を傾げたが、すぐに、「あり得る話だ」と思い直し、中国資本の北海道での動向に詳しい道内の不動産業者に「居留区」証言を確認すると、こんな答えが返ってきた。
「中国資本は、1700億円ほどつぎ込んで、留寿都(るすつ)村にホテルやコンドミニアム、学校、病院、プライベートジェット用の滑走路を造って、中国人集落を造成する計画だった。中国共産党の指示で、3年ほど前から計画が出ていた。最初はカジノの話は出なかったと聞いている」
IR参入が中国人居留区への糸口であるという指摘だ。北海道は4年ほど前から定点観測を始めたが、不動産を買収する外国資本を見ると、圧倒的に中国資本や背後に中国の影が見える資本が抜きん出ている。
森林の事例を示そう。北海道は12年から、毎年、外国資本等による森林取得状況を調査、公表している。最新のデータによると、19年1月~12月に外国資本(海外に所在する企業や個人、日本国内にある外資系企業)が買収した森林は、35件、199㌶(東京ドーム42・3個分)。このうち、中国(香港を含む)とシンガポールの資本が買収したのは24件、79・65㌶(同約17個分)にのぼり、買収目的は、「未定」5件▽「不明」4件▽「資産保有」10件▽「別荘」4件▽「太陽光発電所」1件だった。買収目的が「未定」や「不明」でも、これだけ広大な森林が売買されているのに驚く。こうした無防備な制度下で、北海道では、これまで2946㌶(同約627個分)の森林が外国資本に買収されており、大半は中国資本がらみだという。
しかも、買収地域は全道に広がり、買収規模が百㌶単位と大きいところもある。定点観測を続けていると、不自然さに気づく。一つは「買うだけ買ってそのまま放置するケースが多いこと」。もう一つは「なぜこんなところを買うのか」と首を傾げたくなる場所が多いことだ。事実、自治体関係者や不動産業者からはこうしたことを多く聞くのだ。
それだけではない。ゴルフ場や市中の土地なども買収されている。例えば、赤井川村では、富田地区のゴルフ場が10年、中国資本に買収された。その後、転売され、現在は別の中国資本が所有している。買収後、ゴルフ場は閉鎖され放置されたままだったが、8年後の18年夏、売買に詳しい村の関係者は「約150㌶あるが、ゴルフ場は8ホールにして別荘なども造り、ニセコに次ぐ大規模なリゾート開発を進める方向で準備を進めている。近いうちに構想がまとまるはず」と胸を張っていた。ところが、その後、同村産業課に聞くと、「ひところ2、3回、上海在住のオーナーと打ち合わせをしたが、それっきりで、とん挫したまま。今後のことは分からない」。
洞爺湖町でも同じようなことが起きている。同町では16年7月、中国を拠点に不動産投資を展開する企業グループの現地法人(札幌市)が月浦地区の山林地帯(約7.7㌶)を買収した。当初、広大なリゾート型別荘の建設を公表していたが、同町や洞爺湖温泉観光協会では、土地の買収、開発を事前に知らされていなかったこと、計画の見通しが不透明だったことから、不信感を募らせていた。予感は当たった。18年6月に訪ねると工事は行われていたものの、町は「普通に考えると、宿泊施設などの営業を考えているのでしょうが、情報はありません」と答えた。現在は「計画はとん挫したのか、工事は止まり、野ざらしの状態」(同町観光振興課)とのことだ。
11年、喜茂別町のゴルフ場(約210㌶)が北京の投資会社に買収された。同町によると、「ゴルフ場はオーナーの別荘のようなものと聞いていて、中国人の富裕層がゴルフをしていたようだが、実情は皆目分からない。当初、リゾート開発することになっていたが全く動きがなく、2年前に開発許可を出したが、その後、工事が行われているかどうかは、連絡がないので分からない」。