「整理解雇の4要件」の存在
しかし、現在の日本の雇用慣行では、正社員の解雇は最後の手段であり、殊更困難であるとも言える。すなわち、俗に言う「整理解雇の4要件」の存在である。
整理解雇の4要件とは、1979年に東京高等裁判所が東洋酸素事件の判決の中で示した整理解雇の4つの要件であり、整理解雇はこの要件にすべて適合しないと無効(不当解雇)とされることとなる。その4つの要件とは、(1)人員整理の必要性、(2)解雇回避努力義務の履行、(3)被解雇者選定の合理性、(4)手続の妥当性である。
こうした判例の趣旨を明文化したものとして、労働基準法、第18条の2は、「解雇は客観的に合理的な理由を書き、社会通念上相当であると 認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」がある。
現在では、こうした要件の厳格な運用は行われてはいないとされるものの、それでも正社員のリストラが日常茶飯事となっているというわけでもない。こうした事をもって、解雇規制の存在が正社員の早期リストラを困難にし、結果として企業の存続そのものを危うくしていると評されることも多い。
ただし、年功序列型賃金は生産性と賃金水準の時間的なズレを予め想定し、かつ労働者もそうした賃金制度、つまり、若い自分には生産性未満の賃金に甘んじ、中高齢になってから若い自分の未払い賃金を回収することを前提として働いてきたこともあり、いきなり過去の経緯を無視して中高齢労働者を解雇するのもフェアではないという指摘もありうる。
また、生産性の低い中高齢世代を解雇できたからといってその後釜に若い世代がすんなり収まれるか否かはまた別問題である。
つまり、解雇か正社員の雇用維持か、という二者択一の議論では生産的な議論とはならない。さらに、長い年月をかけて形成されてきた日本型雇用慣行を一朝一夕にスクラップアンドビルドできるとは思えないし、それを前提に企業経営や労働者の生活設計がなされてきたという事実もある。