前回は、雇用市場における競争をイス取りゲームに例え、少子化、高齢化の進行によってゲームの参加者が減っているものの、参加者数の減少ペース以上の速さでイスそのものの数が減っている状況であり、その原因を、短期的な要因と構造的な要因とに分けて説明を行った。そしてイス(雇用)の数の減少のしわ寄せが、わが国の雇用慣行の特徴である新卒一括採用を介して、若い世代に及んでいることを指摘した。
今回は、イスの数の減少が進行していく中にあって、そもそもイスに座り続けるゲーム参加者が居り、かつそうしたルール無視の参加者を排除できない場合の、影響について見てみる。
雇用調整助成金制度は「一時的」な下支えか
そもそも、イスに居座り続ける労働者の存在は、政策的に政府が奨励している場合と、高度成長期以降企業が形成してきた雇用慣行を裁判所がサポートする結果、であるところが大きい。
景気悪化の影響により、企業が雇用を維持できなくなった場合、第1段階は、労働時間による調整、第2段階はパート労働による調整、第3段階は新卒社員の採用の抑制、そして第4段階は正社員の削減と進行していくことは前回確認した。これは、段階を経るごとに企業にかかるコストが大きくなっていくからである。このコストには金銭的なものも、ノウハウ的なものも含まれる。
特に、日本の企業はこれまで、企業特殊的な技能の形成を多額のコストを掛けて正社員に取得させてきたため、景気後退にともなう業績悪化のたびに正社員を解雇していたのでは、割が合わなかったという事情がある。
そこで、政府は、「景気の変動、産業構造の変化その他の経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、その雇用する労働者を一時的に休業、教育訓練又は出向をさせた場合に、休業、教育訓練又は出向に係る手当若しくは賃金等の一部を助成」を行う雇用調整助成金制度を提供している(特に、平成20年12月からは、雇用調整助成金制度から別段で、中小企業緊急雇用安定助成金制度を創設した)。
「社内失業者」の維持に税金を投入?
このような助成金制度は確かに、例えばリーマン・ショック等の景気後退の深刻化による一時的な雇用の落ち込みに対しては緩衝材として機能し有効である。つまり、政府が景気や雇用を下支えしている間に、回復の機運が生じれば、元の職場に復帰できる可能性が高まるからだ。しかし、現行の雇用調整助成金制度における助成金支給期間は3年間で300日と長期間に設定されており、「一時的」な下支えとは言いがたい。