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Wedge REPORT

2021年1月18日

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宇沢弘文 (うざわ・ひろふみ)

日本学士院会員・東京大学名誉教授

1928年、鳥取県生まれ。東京大学理学部数学科を卒業。シカゴ大学教授、東京大学経済学部長を歴任。専門は公共経済学。97年に文化勲章を受章。著書に『宇沢弘文著作集│新しい経済学を求めて』(全12巻、岩波書店)など多数。

大気という
社会的共通資本
を協力して守る

 この危険意識を共有する経済学者たちがローマに集って、地球温暖化についての、世界で最初の国際会議を開いたのは90年10月のことであった。その会議で私が提案した比例的炭素税の考え方が、ヨーロッパの経済学者の間で圧倒的な賛同を得た。そして、比例的炭素税を基調とする地球温暖化対策にかんする国際会議への動きが起こって、京都会議へと繋がっていったのである。

 京都会議はもともと、理性的、科学的な討議を経て、社会的合意の得られるような制度的ないしは政策的枠組みを模索することを主要な目的として企画された。しかし、現実は、各国が空虚なスローガンを掲げて、露骨に自国の利益を主張し、政治的な取引を行う醜い場になってしまった。

(出所)UNFCC.World Development Indicators 他 写真を拡大

 地球温暖化は大気という、すべての人々にとって共通の、大切な社会的共通資本に関わるものである。この社会的共通資本をすべての人々が協力して守ろうとするとき、もっとも効果的であり、社会的コンセンサスを得られやすい政策手段はいうまでもなく、炭素税である。しかし、当時世界の多くの経済学者が主張していた一律の炭素税は、経済的合理性、国際的公正という観点から大きな問題があるだけでなく、発展途上諸国の多くについて、人々の生活の基盤を脅かし、経済発展の芽を摘んでしまう危険をもつ。一律の炭素税が提案されるとき、発展途上諸国が必ず、つよく反対するのは当然である。

 経済的合理性と国際的公正という視点を充分考慮して、しかも各国の持続可能な経済発展を実現するためにもっとも有効な政策的手段が、比例的炭素税である。

 炭素税の社会的、経済的に望ましい水準は、社会的共通資本としての大気の帰属価格である。大気の帰属価格は、大気中の二酸化炭素が1 ㌧だけ増えたときの、大気がもたらす自然的恩恵や経済的、社会的、文化的面での価値の限界的減少を、それぞれの国の立場に立って評価したものである。大気中に排出された二酸化炭素は長い期間にわたって大気中に留まるから、現在から将来にかけて、この限界的評価額を予測し、社会的割引率で割り引いた割引現在価値を求めなければならない。

 この気の遠くなるような計算を可能にするのが、社会的共通資本の理論である。その理論的考え方を地球温暖化の問題に適用すると、大気の帰属価格が各国の一人当たりの国民所得に比例するという結論が得られる。(くわしいことについては、Uzawa,H.,Economic Analysis of Social Common Capital,New York;Cambridge University Press,2005)

 この比例係数を0.01とした場合、2005年についてみると、表のようになる。

 比例的炭素税の制度は、大気というすべての人々にとって共通の、大切な社会的共通資本をすべての人々が協力して守り、地球温暖化を効果的に抑制し、同時にすべての国における持続的経済発展を可能にするためにもっとも効果的であり、また行政的コストも低く抑えられることを改めて強調したい。

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◆Wedge2021年2月号より


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