バイデン政権の外交安全保障政策を探る上で鍵となるのは、国務長官と国家安全保障担当補佐官に指名されている、アントニー・ブリンケンとジェーク・サリバンの二人を知ることである。以下、この二人を紹介する。
ブリンケンの特徴は、「分身」といわれるほどバイデンに近いことである。バイデンが上院外交委員会委員長だった2002年に、ブリンケンが同委員会の事務局長となってから20年の付き合いである。2009年にバイデンが副大統領となると、その国家安全保障担当補佐官となった。
ブリンケンは、クリントン政権時、国務省、大統領府を経験して以来約30年の外交安全保障実績がある。オバマ政権でも、国家安全保障担当副補佐官、国務副長官を歴任している。
ブリンケンは、イデオローグでなく現実主義者である。ブリンケンの信念は、同盟主義とリベラル介入主義である。米国を強くし、信じる政策を広めるために同盟関係が必要と考える。幼少の頃、母とパリに移住し、外から、アメリカの指導力の重要性と限界を知った。それも同盟重視につながっている。
米国の外交政策における民主主義と人権擁護の重要性を強調してきた。両親はユダヤ教徒で、継父はホロコースト生存者であったことからも人種や民族差別には厳しい。
シリアでアサド政権が化学兵器を使用した時、オバマ大統領の政策に反し、軍事行動を推奨した。外交は「抑止力によって補完されなくてはならない」、「軍事力は効果的な外交の補佐役」と述べている。
サリバンは、何十年に1人の逸材といわれる。イェール大ロースクールで法務博士を取得し、控訴裁判所、最高裁判事のロー・クラーク(裁判所調査官に相当)を務める。卒業後4年でヒラリー・クリントン大統領候補のアドバイザーに就任し、オバマが党の候補となると彼のアドバイザーになり大統領選挙討論会の指導にあたった。
オバマ政権時、クリントン国務長官の副補佐官、国務省政策企画本部長となり、クリントン長官とともに112か国を訪問した。ブリンケンの後任としてバイデン副大統領の国家安全保障担当補佐官になった。
サリバンも現実主義者である。サリバンは、政治でなく政策を、そして内政と外交の一体化を重視する。2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントンの選挙参謀として、医療福祉から移民政策など内政議論にも携わった。アメリカ外交の力は国境を超える脅威に脅かされる中間層の成功や繁栄にかかっているというバイデンの考え方と一致する。
サリバンは、政権誕生後の優先課題を「まずコロナ対策。公衆衛生を恒久的な国家安全保障優先事項とするようNSCを改造する」、そして公衆衛生に関し「中国に警告を発する」ことを述べている。
グローバル化により内政と外交は分けられず一般市民も利する外交政策の必要性という視点から、貿易はもちろん移民問題など従来内政といわれる分野にもNSCが関与する可能性がある。
バイデン政権では、ブリンケンとサリバンの二人を中心に外交安全保障政策が決定されていく可能性がある。二人共バイデンの信頼が厚く、二人の関係は良好である。ともに海外、主に欧州の外交安全保障関係者に広いネットワークを有している。
ブリンケンもサリバンも様々な経験から、米政府がいかに機能するかを知り尽くしている。両者共、バイデンの側近たちと密接な関係を築いてきた。バイデンの首席補佐官となるロン・クラインとサリバンは特に親しい。
ブリンケンとサリバンは政策の中身を優先する。例えばブリンケンはシリアのアサド大統領が化学兵器を使用した後、トランプ大統領が報復攻撃をしたことを支持した。サリバンはトランプ政権の外交政策の中で有効と思われるものは引き継ぐと述べている。
同盟関係重視はアメリカのため、また対中政策を含め広く国際社会共通の秩序のために欠かせないという認識だが、それだけに同盟国が役割をきちんと果たすことを求めてくるだろう。
よりソフトパワーにシフトするのは間違いないだろうが、サリバンはその一環として予算配分の見直しの必要性を述べている。彼は、まず戦略をたて必要政策を明確にし、それを担う内容により予算を配分する考えを示している。
対中政策は、貿易赤字や安全保障に集中するのではなく、公衆衛生や環境、人権と幅広い分野で異なった政策を打ち出してくるだろう。日本に関しては、中国の拡張主義を抑える抑止としての日本の地政学的、技術・軍事的重要性を重視している。
問題は、顕在化してきた米国の分断だろう。外交で超党派の合意がなされても、内政で社会が分断していては、外交もやりにくくなる。トランプ大統領の支持者がいかに多いかは大統領選挙で明らかであった。その多くが政治や社会の権威、科学者などの専門家を忌み嫌い不信感を抱く人々である。ブリンケンやサリバン、その他バイデン政権のメンバーは、そうした政治・官僚経験者や専門家の集団である。内政を考慮した外交政策を打ち出しても、それがどれだけ伝わるか、理解を得られるかは大きな課題である。
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