海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年2月24日

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海野素央 (うんの・もとお)

明治大学教授 心理学博士

明治大学政治経済学部教授。心理学博士。アメリカン大学(ワシントンDC)異文化マネジメント客員研究員(08年~10年、12年~13年)。専門は異文化間コミュニケーション論、異文化マネジメント論。08年と12年米大統領選挙で研究の一環として日本人で初めてオバマ陣営にボランティアの草の根運動員として参加。激戦州南部バージニア州などで4200軒の戸別訪問を実施。10年、14年及び18年中間選挙において米下院外交委員会に所属するコノリー議員の選挙運動に加わる。16年米大統領選挙ではクリントン陣営に入る。中西部オハイオ州、ミシガン州並びに東部ペンシルべニア州など11州で3300軒の戸別訪問を行う。20年民主党大統領候補指名争いではバイデン・サンダース両陣営で戸別訪問を実施。南部サウスカロライナ州などで黒人の多い地域を回る。著書に「オバマ再選の内幕」(同友館)など多数。

 今回のテーマは、「22年米中間選挙と24年大統領選挙における『共和党説明責任プロジェクト(Republican Accountability Project)』の影響力」です。反トランプの共和党員が「共和党説明責任プロジェクト」を立ち上げました。

 このプロジェクトの目的は一体何でしょうか。プロジェクトの幹部はどのようなメッセージを発信しているのでしょうか。また、22年中間選挙及び24年大統領選挙において、このプロジェクトはどのような影響を及ぼすのでしょうか。本稿では新たなプロジェクトの目的と影響力について述べます。

(natasaadzic/gettyimages)

「共和党説明責任プロジェクト」の目的

 「共和党説明責任プロジェクト」は、同党の政治戦略家兼保守系ウェブサイト「ザ・ブルワーク(The Bulwark)」の出版社サラ・ロングウェル氏によって設立されました。同プロジェクトにはトランプ前政権の2人の幹部が参加しています。1人はマイク・ペンス前副大統領の副大統領補佐官(国家安全保障問題担当)で、ホワイハウスの新型コロナ対策チームの上級顧問であったオリビア・トロイ氏です。もう1人は国家安全保障省で副首席補佐官を務めたエリザベス・ニューマン氏です。保守派の評論家として知られているビル・クリストル氏もこのプロジェクトの幹部です。

 彼らは、21年1月6日に発生した米連邦議会議事堂乱入事件は公平な選挙を覆そうとした急進的なトランプ支持者によるものだと指摘しました。数カ月にわたり「選挙が盗まれた」と誤報を拡散したドナルト・トランプ前大統領と議会共和党によって、トランプ支持者は煽動されたというのです。さらに、「共和党は再び歩み始めようとしているが、説明責任なしに前進できない」と批判しました。

 そのうえで、同プロジェクトの幹部は以下の3つの目的を挙げています。第1に、個人的及び政治的リスクがあるのにもかかわらず、共和党指導部のリーダーシップに公然と反抗し、民主主義を擁護した同党議員を支持することです。個人的リスクとは自分や家族が嫌がらせを受けたり、命を狙われるリスクです。一方、政治的リスクとは選挙で敗れるリスクを指しています。

 第2に、合法的な選挙結果を覆そうとした共和党議員に対して対抗馬を立てて彼らを落選させることです。第3に、不正選挙に関するウソと陰謀論の拡散に対抗することです。

深まる共和党内の亀裂

 創設者のロングウェル氏は2月16日放送の米議会を専門とするケーブルチャネルC-SPANでのインタビューで、「民主主義を弱体化させた共和党議員に責任を負わせ、民主主義を擁護した共和党議員を守る」と主張しました。

 トロイ氏は、「説明責任なしに、共和党内の団結はあり得ない」という強いメッセージを発信しています。共和党は議事堂乱入事件に関する議論を早く終わらせて、幕引きをしたからです。ニューマン氏は、「共和党の未来もこの国の未来もドナルド・トランプと結びつくものではない」と断言しました。トランプ氏との決別を訴えています。

 「共和党説明責任プロジェクト」は、まず100万ドル(約1億円)を投じ、テッド・クルーズ上院議員(南部テキサス州)、ジョシュ・ホーリー上院議員(中西部ミズーリ州)、共和党下院トップのケビン・マッカーシー院内総務、マージョリー・テーラー・グリーン下院議員(南部ジョージア州)など、12人の共和党議員を標的にした屋外広告の看板を作りました。

 例えば、クルーズ氏を標的にした看板には同氏の写真と一緒に、「あなたは選挙でウソをついた。議事堂が攻撃を受けた。クルーズ上院議員、辞任しろ」というメッセージが印刷されています。

 22年米中間選挙の共和党予備選挙において、トランプ氏は弾劾裁判で自分に有罪票を投じたリズ・チェイニー下院議員(西部ワイオミング州)、ジェイミ・ヘレーラ・バトラー下院議員(西部ワシントン州)、アダム・キンジンガー下院議員(中西部イリノイ州)など10人の下院議員に対して対抗馬を立てる可能性があります。そこで、「共和党説明責任プロジェクト」はトランプ系の極右候補に対抗するために、民主主義を擁護した下院議員を支持する運動を展開するというのです。中間選挙に向けて共和党内の亀裂が一層深まっていくことは間違いありません。

「チェイニー対グリーン」世論調査結果の意味

 トランプ前大統領と共和党上院トップのミッチ・マコネル院内総務の対立は、同党下院にも影響を与えています。グリーン下院議員はトランプ系の極右議員で、「共和党説明責任プロジェクト」が支持するチェイニー下院議員は反トランプ系の保守派議員です(『共和党をかき回すトランプ派の残党』参照)。

 世論調査で定評がある米クイニピアック大学(東部コネチカット州)の調査(21年2月11~14日実施)によれば、共和党支持者におけるチェイニー議員の好感度は7%、非好感度は36%で55%が「充分な情報がない」と回答しました。一方、グリーン議員に対する好感度は17%、非好感度は20%で62%が「充分な情報がない」と答えています。共和党支持者における好感度において、新人議員のグリーン氏が同党下院ナンバー3のチェイニー氏をリードしています。

 さらに、「現在の共和党を代表しているのは、チェイニー氏かグリーン氏か」という質問に対して、共和党支持者の18%がチェイニー氏、23%がグリーン氏を挙げました。「将来、共和党で重要な役割を果たしてもらいたのは、チェイニー氏かグリーン氏か」という質問では、全体で45%がチェイニー氏、14%がグリーン氏と回答しました。ところが、共和党支持者に限ってみますと、チェイニー氏が22%、グリーン氏が25%で、後者が3ポイント上回りました。

 共和党内では、グリーン氏のような右派のトランプ系議員が、「共和党説明責任プロジェクト」が擁護する反トランプの保守系や中道穏健派の議員よりも支持を得ています。ということは、22年米中間選挙と24年大統領選挙で、どのような展開が予想できるのでしょうか。 

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