2024年12月23日(月)

Wedge REPORT

2021年3月10日

 五輪を控えて様々な面での国際化や国際的競争力が話題となっている。例えばヤフーとラインの事業提携によるスーパーアプリの出現などだが、民間は次々に新しいアイデアに取り組んでいても、日本の行政の在り方がそれを阻害する要因になっているのではないか、と思える。例えば五輪パラのためのアプリに73億円を投じる、というニュースがあったが、民間に委託すればこのような費用をかけずに効率的なアプリを作ることは可能だろう。

 コロナ感染者との濃厚接触を追跡するアプリ、ココアでも不具合が見られたが、厚生労働省は帰国者用にラインアプリを提供している。しかし筆者はコロナ禍の中で2度米国から帰国したが、このラインは全く機能していなかった。自宅のある京都市の区役所から帰国後の健康状態をチェックするためのメールが来たので、ラインに全く連絡がない旨を伝えると、「ラインで連絡できないと言う方は多い」という返答だった。

(Murata Yuki/gettyimages)

 行政サービスの矛盾を身近に感じられる、こんなことがあった。筆者は在仏時代に日本の運転免許証をフランスのものに切り替えた。欧州の中では行政手続きの煩雑さで有名なフランスではあるが、法廷翻訳などをきちんと用意して行けば、警察署で1日で手続きを終え、フランスの免許を手にすることができた(ちなみに免許を取得したのは1993年。2013年に15年更新となるまで、フランスでは、更新なしで免許が一生使えた)。

 この免許を再度日本のものに切り替えるため京都府の運転免許試験場に出向いたところ、不受理とされた。そもそも、1度取得したら、一生更新がないフランスと、数年ごとに更新が定められている日本では制度が違うので、仕方のない部分はある。

 それでも、日本の制度について首をかしげたくなる部分もある。外国免許の切り替えの予約が出来るのが3カ月先、電話では法廷翻訳(本物であると証明する文書)と、住民票、免許取得当時にフランスに住んでいたことが証明できるパスポートなどが必要、と言われ、それを用意して切り替えに行ったのだが……。

 理由は「仏滞在期間が証明できないから」だという。しかし、筆者のパスポートにはフランス入国の日時と、日本帰国日時が示されたスタンプが押してある。なぜこれで証明できないのか、と聞くと「日本の帰国スタンプは関係ない。仏出国スタンプが必要」だという。

 海外旅行をしたことがある人はご存知だろうが、ほとんどの国で出国の際にスタンプは押されない。フランスでも米国でも他の国でも、筆者のパスポートに出国スタンプというのは日本以外にはほぼ皆無だ。しかも日本も最近は帰国の際のスタンプが省略されるが、「免許証の取得などでスタンプが必要な人は申し出るよう」注意書きがある。

 つまり、入国管理の場面では日本に帰国した、イコールそれまで海外に滞在していた、という証明となる。ところが免許切り替えの場では全く異なったことを言われるのだ。

 また、なぜ免許取得の前後3カ月間フランスに滞在していたことを証明する必要があるのか、という問いに対しては、「東南アジアなどで簡単に免許を取って日本の免許に切り替える人が多かったため、その対策として現地に居住していたことを証明する、という事項が定められた」という説明を受けたのだが、これも意味不明だ。

 というのは、日本の免許に無条件で切り替えられる国は限られている。警察庁のホームページでは、

 知識の確認、技能の確認を免除する国等(29カ国・地域)アイスランド、アイルランド、アメリカ合衆国(ハワイ州・バージニア州・ワシントン州・メリーランド州)、イギリス、イタリア、オーストリア、オーストラリア、オランダ、カナダ、韓国、ギリシャ、スイス、スウェーデン、スペイン、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ニュージーランド、ノルウェー、ハンガリー、フィンランド、フランス、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、モナコ、ルクセンブルク、台湾(2021年3月1日現在)

 とあり、東南アジアで簡単に取得した免許を日本のものに切り替える、というのは事実上不可能なはずだ。筆者は米国カリフォルニア州の免許も持っているが、この免許では技能筆記試験を受けなおさないと日本の免許は取得できない。

 つまり前提そのものがおかしい理由により、3カ月現地滞在の証明という条項が付き、それもパスポートのスタンプで証明できない、非常に不可思議な内容なのだ。筆者の前に並んでいたのは偶然フランス人で、やはり前回不受理となり、今回が2回目なのだ、と不満を露わにしていた。

 そもそも筆者のフランス免許は日本の免許証をフランスのものと交換したものだ。ところが後に京都府警に問い合わせたところ、失効した免許は5年程度で記録が抹消される、という。理由は「パソコンの容量が一杯になるため」という返答だった。

 つまり行政機関として個人の記録は5年程度しか保管していない、と言うのに、利用者には30年も前のフランス滞在を証明する書類を提出しろ、という矛盾した内容でもある。

 再度運転免許試験場の担当者に問い合わせをしたが「3カ月間の現地滞在が証明できる書類を提出、というのは法律に明記されており、例外は認められない」という返答だった。

 しかし、前提となるのが「東南アジアなどで簡単に免許を取得して日本で使う人がいるから」、と言うなら、フランスの免許は日本並みに取得が難しいのである。正当な手段で交付された、しかも日本政府とは覚書協定などで「法廷翻訳を所持していれば、フランス免許で日本で運転可能」という条件まである免許証を、住民票を持つ日本人である筆者がなぜ日本免許に切り替えることができないのか。これは国際的な基準で見ても非常におかしいことだろう。

 一方でフランスの県庁に提出した日本の免許を取り戻すことができれば、日本の免許の失効処分を取り消すことができるのか? という質問に対しては、出入国管理庁から個人の出入国記録を取り寄せるなどすれば可能性はある、という。


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