2024年11月18日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年3月24日

 バイデン政権が発足して1カ月半が経過し、中国に対する強い警戒感が明らかになった。閣僚級の指名公聴会ではブリンケン国務長官がトランプ大統領の対中強硬姿勢が正しいと認め、オースティン国防長官、イエレン財務長官、ヘインズ国家情報長官らが判で押したかのように、中国に対する強い警戒感を表明した。

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 ケリー元国務長官が気候変動担当大統領特使に就任したことから、オバマ政権の第二期のように気候変動が対中姿勢の中心になり安全保障面が等閑視される可能性もあったが、現在のところケリー大統領特使の事務所は国務省に設置され国家安全保障会議のプリンシパル会合には参加していない。安心はできないが、現時点では中国に対する強硬姿勢が政権の対中政策の基盤を形作ろうとしている。

 議会においても、上下両院で民主党が事実上の多数派になったことから、左派が特に重要視する気候変動や人権が対中政策の基調を形成する可能性もあったが、現時点では中国に対する戦略的競争者という懸念が、気候変動や人権への関心を上回っている。議会において共和党と民主党が水と油のように分離している中、中国に対する戦略的警戒感だけは共有されている。

 バイデン政権と議会が共有する中国に対する懸念の中核を成すのが、中国との先端技術開発をめぐる戦略的競争だ。議会における中国の技術面での覇権に対する懸念は、超党派委員会による人工知能に関する報告書に示された通りである。また、バイデン大統領は、2月24日、半導体、電気自動車(EV)などに使う大容量電池、医薬品及びレアアース(希土類)を含む重要鉱物の重点4品目の供給網(サプライ・チェーン)を100日以内に見直すよう求める大統領令に署名した。

 バイデン大統領の側近中の側近であるサリバン国家安全保障担当大統領補佐官は、政権交代に伴う恒例の米国平和研究所(USIP)における討論会で、中国への対応を政権の最大の外交課題と指摘した上で、中国との戦略的競争の帰結は、人口知能、量子計算、バイオテック、クリーンエネルギーなどの最先端技術の優位性にかかっていると述べ、技術開発に対する公的投資に積極的に取り組むこと、そしてこの点について超党派の合意ができていることに言及した。

 バイデン政権は最先端技術での米国の戦略優位性を確保する目的で、ダリープ・シン国家安全保障担当副補佐官(国際経済担当)、アン・ニューバーガー国家安全保障担当副補佐官(サイバー・新興技術担当)、タルン・チャブラ国家安全保障会議上級部長(技術・安全保障担当))など、技術専門家を次々と起用している。バイデン政権と議会は共に、中国との技術覇権競争で同盟国や友好国と連携することの重要性を指摘している。しかし、経済と技術に関しては同盟国や友好国と言えども国益が全て一致するわけではない。日本は経済と技術の日米間の安全保障への組み込みについて、バイデン政権の技術専門家との議論を継続して政策に落とし込むことが必要だ。

  
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