今回のテーマは、「バイデン政権の対中国政策と世論」です。バイデン政権の外交の要であるアントニー・ブリンケン国務長官は2021年3月3日、ワシントンで外交演説を行いました。その中で、ブリンケン氏は中国に対してどのようなシグナルを送ったのでしょうか。また、米国民は同国に対してどのような感情を抱いているのでしょうか。
本稿では、ブリンケン国務長官の中国に対する心情及び最新の世論調査結果について述べます。
経済関係VS.人権問題
米世論調査機関ピュー・リサーチ・センターが実施した調査(21年2月1~7日実施)によれば、70%が「中国との経済関係が悪化しても、中国における人権を促進するべきである」と回答しました。
一方、26%が「人権問題に取り組まなくても、中国との経済関係強化を優先するべきである」と答えました。人権問題が経済関係を44ポイントも上回りました。米国民は中国に関して、経済関係よりも人権問題に価値を置いています。
興味深いことに、同調査で77%の保守派の共和党支持者と76%のリベラル派の民主党支持者が中国との経済関係よりも人権問題を重視していることが分かりました。両党の保守派とリベラル派の人権問題に対する関心は、わずか1ポイント差でした。同国の人権問題は、共和党保守派と民主党リベラル派が協力できる数少ない分野になります。
人権のブリンケン
にもかかわらず、ドナルド・トランプ前大統領は習近平国家主席に対して、人権問題で寛容な態度を示し通商問題で譲歩を引き出そうとしました。これに対して、バイデン政権は異なったアプローチをとっています。
ブリンケン氏は人権問題に対して信念と情熱を持っています。国務長官に就任したその日に、ビデオメッセージを発信してナチスによるホロコースト(大量虐殺)の生存者である義父を紹介しました。義父から人権問題に関して強い影響を受けたことは間違いありません。
ブリンケン国務長官は外交演説で中国との関係について、「そうするときは競争的、可能な場合は協力的、そうしなければならないときは敵対的になる」と述べました。
そのうえで、「新疆ウイルグ自治区で人権が侵害されたときや、香港で民主主義が踏みつぶされたとき、我々の価値観を擁護しなければならない。もしそうしなければ、これからも中国は罰をうけずに行動するだろう」と、警告を発しました。ブリンケン氏は中国の人権問題では「敵対的」になる必要があると捉え、人権問題を最重要視するというシグナルを送りました。
ただ、トランプ前大統領が追加関税を「てこ」にして、中国に米国産農産物の大量購入を迫ったのに対し、ブリンケン氏は人権問題でどのようにして同国の行動変容を促すのかはまだ見えてきていません。