2024年11月25日(月)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年3月26日

日本の懸念と米国の不安

 では、菅総理はバイデン大統領に対してどのような懸念を直接示すのでしょうか。日本は米国が気候変動問題で中国の協力を得るために、南シナ海及び東シナ海における海洋進出で譲歩するという懸念を抱いています。一方、米国は日本が中国との経済関係を最優先させて、人権問題を後回しにすることを不安視しているでしょう。

 中国を巡る気候変動問題と海洋進出の優先順位ですが、率直に言ってしまえば、バイデン政権内のパワーゲームで決定する可能性が高いといえます。元国務長官で民主党の重鎮ジョン・ケリー氏は気候変動問題担当の大統領特使で、ブリンケン氏の上司でした。ただ、現在はブリンケン氏が国務長官で、外交の要になっています。両氏のパワーゲームが鍵を握っているとみてよいでしょう。

 加えて、注意を払って置くべき点があります。バイデン大統領を取り巻く状況が優先順位に影響を与える公算があります。バイデン氏は米国社会の結束に加えて、民主党内の左派との団結を求められています。同党左派は中国の海洋進出よりも気候変動及び人権問題に高い関心を示します。おそらく、バイデン氏は海洋進出、気候変動並びに人権問題において、人権を最優先するでしょう。

 さて、日本は中国の海洋進出に対して米国と一体となって断固たる態度を示し、経済では中国に寄り添う道を選択したようにみえます。一方、新疆ウイルグ自治区の人権問題では中国を刺激して日本経済に悪影響が出ない程度に声を上げています。同時に北朝鮮による拉致を人権問題として訴え、ブリンケン氏に協力を求めています。

 これでは、日本はバイデン氏及びブリンケン氏から厚い信頼を勝ち取るのは困難であると言わざるを得ません。

 そこで菅氏はバイデン氏との会談の冒頭で、新疆ウイルグ自治区におけるイスラム系少数派を標的とした強制労働や強制収容所、強制妊娠手術などの人権侵害について語り、信頼を得ることが不可欠です。人権問題で中国を厳しく批判すれば、海洋進出や経済における日本の立場を強めるでしょう。


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