中国政府は、3月11日に閉幕した全人代で、香港の立法委員選挙の制度を変えることを打ち出し、香港の一国二制度をほぼ完全に葬り去ろうとしている。直接選挙される立法委員を50%から22%まで減らす。従来は行政長官を選んでいた選挙委員会の権限を拡大し、立法会の議員の一部も選ぶようにする。資格審査委員会を設置し、候補者が「愛国主義」であるかどうかなどの審査を受けるように求める。などといった内容である。これは、中国による自由主義の価値への重大な挑戦の最新の例の一つである。
こうした香港情勢をとらえて、エコノミスト誌3月20日号は‘How to deal with China’と題する社説を掲載し、これから中国に見られる専制と自由の価値を擁護する勢力間の長い闘争が行われていくという情勢判断をしている。香港の自治と民主政が中国に踏みにじられていったこと、中国の政治の在り方を見て、こういう判断に行きついたということだろう。3月下旬のアンカレッジでの米中会談を見ても、この情勢判断は正しいと思われる。
日本は、米中対立の時代が来ていることを明確に理解し、その価値観からして米国の側に立つというのが基本である。安全保障は米国に依存するが、中国との関係も特に経済面では重視するというような姿勢をとれるような生易しい状況ではない。
この米中対立については、イデオロギー対立なのか、経済・技術の主導権争いなのか、あるいは大国間の勢力争いなのか、いろいろな説明があるが、これらの対立が複合的に重なり合ったものであると考えるべきだろう。米ソ冷戦時代はソ連の経済力は弱く、対立はイデオロギー対立と軍事対立を中心に行われたが、今度の米中対立は、中国が強い経済力を持つ中で、経済技術面での競争がかなりの比重を占めることになるだろう。これが物事を複雑化する。
短期的には、もし選択を迫られれば多くの国は西側より中国を選ぶ可能性もある。中国は64か国にとり最大の商品貿易パートナーであるが、米国は38か国にとりそうであるに過ぎないからだ。長期的には、国の大きさ、多様性、革新性により、中国は外部圧力に適応できる能力を備えているかもしれない。香港での民主主義の後退は香港のドル決済や株式市場の繁栄に影響を与えていないし、中国本土への投資も盛んであるという。レーニンは「資本家というものは自分を縛り首にする縄さえ利潤のためには売るものである」といったことがあるが、大企業も徐々に中国への投資などを考え直すべきであろう。
上記社説は、厳しい米中対立を予測しつつも、対応策として対中国「関与」が唯一賢明な道であるというが、これには必ずしも賛成できない。「関与」は何を意味しているのか、分からないが、中国の国際法違反を看過して普通の対話をするということならば、賛成しがたい。ダメなものはダメとし、それなりのコストを課していくべきであろう。
より長期的には、中国の勢いはそれほど続かないと思われる。人口の少子高齢化はすでに始まっており、一人っ子政策のマイナスは大きくなっている。特に若年層での男女の比率の不均衡は、さらなる少子化につながる。環境面での制約、水不足や大気汚染はいまそこにある危機である。さらに言うと、専制体制は政治の不安定化の危険と隣り合わせである。国民の負託を受けているとの正統性がない政権には脆弱性がついて回るものである。
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