2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2021年5月7日

男性の1カ月の育休は
人生・社会を変える

 有効な少子化対策には「子育てにおける男女平等」が重要であるという点を踏まえると、日本には改善の余地が大きいことがわかる。総務省の社会生活基本調査によると、16年の日本の男性の家事・育児負担割合は17%ほどで、これは先進国としては最低水準だ。

 これから日本が歩むべき少子化対策の第一歩は「男性を家庭に返す」ことである。複数の実証研究によると、男性が家庭で過ごす時間が増えると、より家庭を重視し、子育て・家事に積極的になることが示されてきた。

 筆者の研究グループでは20年、内閣府の調査から得られたデータをもちいて、テレワークの実施と子育て時間の関係を分析した。新型コロナウイルス感染症の流行下で、子供を持つ男性がテレワークを行うようになった結果、家事・育児時間が増え、仕事よりも家族をより重視するような価値観の転換が見られたことが明らかになった。まだまだ詳細な検証を行う必要があるが、テレワークなどにより家庭で過ごす時間が増えることが日本人男性の「イクメン化」に寄与しうることを示唆している興味深い結果だ。

 また、男性の育休取得推進が「イクメン化」に有効であることを示す研究もある。カナダのケベック州やスペインの研究では、男性が育児休業をとり、子供が生まれて最初の1~2カ月を家で一緒に過ごすと、3年後の家事育児時間が2割程度増えたという研究結果が報告されている。

 「1カ月ほどの育休で何が変わるのか」という懐疑的な向きも多いだろうが、こうした研究が示しているのは男性の1カ月の育休は人生を変え、社会を変える1カ月になりうるという事実だ。

エビデンスに基づき
政策の実行・修正を

 菅義偉政権は少子化対策として待機児童解消や男性の育児休業取得促進、不妊治療の保険適用を掲げている。

 まず待機児童解消は、女性の子育て負担を減らし就業を可能にするため、特に有効な少子化対策であり、日本についてのエビデンスも報告されている。国際比較を見ても、保育所が整備され、子供を持つ女性の就業率が高い地域ほど出生率も高い。最終的には保育所の質を確保しつつ、保育所と家庭のミスマッチも解消して、希望するすべての家庭が保育所を利用できるようになることが理想だ。

 そして既に述べたとおり、男性の育休取得促進も有効だ。大切なのは「男性を家庭に返す」ための選択肢は「休業」だけに限らないことだ。労働者の健康に留意しつつ、日本社会でよく見られる必要性の乏しい長時間労働を減らすこともそれにあたり、また、家でも仕事をできるようにするため、テレワークやフレックスタイム制などの柔軟な働き方に関する制度を導入することも効果的である。また、それらの制度を活用することに対する企業、個人にインセンティブを付与することも、少子化対策として重要である。

 一方、少子化対策としての不妊治療の有効性は明らかではない。むしろ、リプロダクティブ・ヘルス、リプロダクティブ・ライツ(性と生殖における個人の自由と法的権利)を推進する政策と考えるべきではないか。イスラエルの研究では、不妊治療を無償化した結果、結婚と出産の年齢を引き上げることにつながってしまったそうだ。これでは少子化対策として期待したような効果が出にくい。不妊治療は尊重する必要があるが、年齢制限を設けるなど効果的な導入が必要だろう。

 少子化対策は待ったなしだ。日々提示されるエビデンスに基づき、無謬性に捉われず、政策を実行・修正していくことが必要である。

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 少子化対策についてのエビデンスやその解釈、有効な政策の方向性についての詳しい議論は拙著『子育て支援の経済学』(日本評論社)に譲る。

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PART 4  少子化対策 「男性を家庭に返す」  これが日本の少子化対策の第一歩
PART 5  歴史        「人口減少悲観論」を乗り越え希望を持てる社会を描け       
PART 6  制度改革    分水嶺に立つ社会保障制度  こうすれば甦る
Column 高齢者活躍 お金だけが支えじゃない  高齢者はもっと活躍できる
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◆Wedge2021年5月号より

 

 

 

 


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