日本語教育に歴代共産党政権の
日本に対する政治姿勢が反映されている
2011年には、中国のGDP(国内総生産)が日本を追い抜いて世界第2位に躍り出た。その翌年の2012年、『中国特色日語教育研究』(席衛国 陝西師範大学出版社)が出版されている。
著者は西安外国語大学で日本語を専攻し、1989年に卒業してからも一貫して中国において日本語教育に従事。この間、2003年には九州大学大学院に留学し、「日本の国語と国文学研究に従事」した。『中国特色日語教育研究』は「在日4年間の研究の結晶」(「著者簡介」)とのことだ。
著者は膨大な資料と実地調査によって日中両国における中国人に対する日本語教育の実情を詳細に分析し、多くの問題点を挙げている。ここで興味深いのが、著者が研究資料として提示している中国で編集され、教育現場で使われていた日本語教科書の内容である。
たとえば「中国の多くの地域の日本語教育機関(大学など)に採用された教科書」で、「1990年に中国人日本語教師によって作成が開始された」とされる『新編日語』(第1冊)の「第13課 希望(会話)」には、
李:将来、日本に行きたいと思います。
牧野:日本に行って何をするつもりですか。
李:日本の経済を勉強するつもりです。
牧野:大学院に入るつもりですか。
李:はい、ぜひ大学院に入りたいと思います。
1990年代初期といえば日本経済のバブルが破裂したとはいえ、日本の経済規模は中国を遥かに凌ぎ、世界経済に対し依然として大きな影響力を持っていた。であればこそ、日本に留学して「日本の経済を勉強するつもり」で日本語を学ぼうとする若者もいたとしても決して不思議ではない。むしろ少なくはなかったはずだ。
天安門広場で「日本の方達の新安保条約反対を支持する百万人を越えた集会」が開かれてから60年ほど。中国における日本語教育の変遷をたどると、歴代共産党政権の日本に対する政治姿勢が反映されていることが見て取れる。
そこで現在の習近平政権だが、4月17日に報道官談話に見られるように、「日米が中国側の懸念を厳粛に受け止め、『1つの中国』の原則を守り、内政干渉と中国の利益を損なうことを直ちにやめるよう」とアメリカと共に日本を強く牽制するばかり。
とはいうものの、まさか「天安門は、もう新中国の象徴なばかりでなく、今では私達日本人の、いえ、平和を愛する世界中の人々の心の中のシンボルになっていますよ」などといった内容の日本語教育は行われてはいないだろう。
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