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Washington Files

2021年5月24日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

非科学的価値観

 アメリカでは、非科学的価値観が他の先進諸国にくらべ一般市民の日常生活の中でも、ことのほか大きなウェイトを占めている側面も見逃せない。

 その最たるものが、人間がサルから進化したことを科学的に論じたダーウインの「進化論」の否定だ。

 有力誌「The New Yorker」はすでに2012年6月に「なぜ、われわれは科学を信用しないのかWhy We Don’t Believe in Science」と題するエッセイを掲載、アメリカの一般市民生活の中に見られる非科学性について論じているが、その中で以下の点を指摘している:

  1. 最近の「ギャラップ」世論調査によると、アメリカ人の成人のうち45%が「今から1万年ほど前に神が人類を創造した」と信じ、対照的に「聖なる力の導きとは無関係に進化し今日の形の人間になった」と回答した人はわずか15%にとどまった。
  2. 驚くべきことに「ギャラップ」社は30年前にも同じ質問をしているが、当時も44%のアメリカ人が「進化論」ではなく「天地創造」説を支持しており、実態は以前からほとんど変わっていない。
  3. メリーランド大学のケブン・ダンバー博士(心理学)はなぜこのように多くの人が非科学的な考えを持つかを調べるため、一般教養の学部生と物理学専攻の学部生を対象にした実験で、大きさと重さの異なる二つの鉄玉を比較し、上から同時に落とした場合どちらが早く地面に落下するかを尋ねた。物理学専攻の学生たちは全員が「二つとも同時落下」と正しく回答したが、一般教養の学生たちは「より大きい鉄玉が先に着地する」と答えた。
  4. 脳の働きを詳しく調べたところ、一般教養の学生たちには予めプログラムされた「思い込み」「直感」が支配し、科学的発想を阻害していることが分かった。
  5. このことは、早くから染みついた宗教的思想や偏見が後々まで残り、コペルニクスの「地動説」が広く受け入れられるようになるまで長い時間がかかったのと同様に、ダーウインの「進化論」がアメリカにあまねく普及するにはまだ相当の時間を要することを例示している。

 この記事も指摘している通り、アメリカでは子供のころから日曜日に家族で教会に出かけ、「神の子イエス・キリスト」の教えに対する信仰が根付いており、そのことが「進化論」否定につながっているとする指摘もある。

 また、アラバマ、ミシシッピーなど南部諸州では今なお、理科の時間に生徒に「進化論」ではなく「天地創造」説を教える小中学校が少なくない。

 一般市民の世論調査でも、回答者の16%が学校で「天地創造」説を教えるべきだと回答している( People for the American Way poll, 2000)。

気候変動も否定

 さらには、他のほとんどの先進国で受け入れられている「地球温暖化」「気候変動」の原因についても、アメリカでは人為的要因との関係を否認する人が少なくない。

 米エール大学「気候変動コミュニケーション・プロジェクト」が今年初め実施した世論調査によると、回答者の16%が、気候変動が起こっていること自体は認めたものの、その原因は「自然現象によるもの」と答えたほか、10%が、気候変動の存在そのものを認めなかった。国民の4人に1人が、自動車排気ガスや工場排煙と地球温暖化との関係を否定していることを示唆している。

 さらに「ギャラップ」社が4月初め、政党支持別の意識調査を実施したところ、民主党支持者の82%が「地球温暖化は始まっている」と回答したのに対し、温暖化の現実を認めた共和党支持者はわずか29%にとどまった。ただ、共和党支持者のうち、18-29歳のヤング世代の場合、75%近くが温暖化の存在を認める一方、50-64歳代で14%、65歳以上では11%と、年齢が上がるにつれて温暖化問題への正しい認識が極端に低下していることもわかった。

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