世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年6月14日

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 トルコと西側との関係は複雑で多くの厄介事を抱えている。バイデン政権がトルコとの関係をどうするつもりであるかは未だ明らかでない。バイデンは4月24日、オスマン帝国末期の1915年に起きたアルメニア人大量殺害事件についてジェノサイドと認定する声明を発表したが、その前日の23日、エルドアンと電話会談を行った。愉快な会談になったとは思えないが、6月のNATO首脳会議の際に会談することで合意したという。その際、避けて通れないのがトルコがロシアから調達したS-400地対空ミサイル・システムの問題である。トランプ政権は政権末期の昨年12月にこの問題でトルコに制裁を発動したが、制裁解除にはトルコがS-400を手放すことが制裁法の要件である。ミサイル・システムの実戦配備が進んでいるのかどうかなど、情勢はよく分からないが、まずはこの問題を処理する必要があろう。

 より長期的な関係となるとどうか。イスタンブールを拠点に活動するトルコ人ジャーナリストのアスリ・アイディンタスバスが、Foreign Affairs電子版に5月19日付で‘Turkey Will Not Return to the Western Fold’と題する論説を掲載しており参考になる。論説は、エルドアンの外交政策は、トルコはこの地域でリーダーシップを主張し覇権を目指すべき当然にしてユニークな立場にあるとの観念に基づくものであり、その淵源はオスマン帝国に遡ることができると論じる。そして、トルコが西側に復帰することはないだろうと言っている。

 アイディンタスバスの指摘は恐らく的確であるが、このトルコ外交の特質は既に10年も前から指摘されていることである。当時は、トルコの地政学上の戦略的位置、経済力の伸長、そしてイスラム世界との歴史的繋がりと文化的近さのゆえにトルコの重要性を不健全に過大評価しているとの懸念も表明されていた。

 しかし、トルコの野心が近時ますます顕著になる一方において、トルコの軍事力を中心とする力は伸長し、野心に見合う水準に接近しつつあるとの印象がある。トルコは、NATOのパートナーに懐疑的で、西側のルールでプレーすることの価値を疑い、むしろ双方の陣営に足掛かりを有する戦略的自立性を追及している。アイディンタスバスは、この傾向はエルドアン後においても変わりようのない長期的な外交政策の方向性の変化だという。トルコがロシアとパイプラインで協力し、中国からワクチンを購入することを問題にする必要はない。しかし、西側の価値を疑い、NATO加盟国として自身の行動を律することが出来ないとなれば、話は別である。そうであれば、トルコがNATO加盟国であることの西側にとっての価値を問い直す必要も出てこよう。

 とは言うものの、簡単に答えが出せる問題ではない。当面、米国にとっての課題はどうやってトルコの不健全な行動を抑制しつつ建設的な関係を築くかにある。それには、米国がこの地域に関与(一定の軍事的な関与も必要であろう)を続けることが必須であることは間違いないだろう。その過程でトルコとの利害調整の努力をすることが建設的関係への道筋ではないかと思われる。

  
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