世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年6月9日

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 5月15日、カダフィの独裁の後の10年の混乱を経て、ようやくリビアに単一の暫定政府が成立した。リビアを立ち直らせるチャンスが訪れている。

Oleksii Liskonih / iStock / Getty Images Plus

 ここ半年ほどの経緯は、およそ次の通りである。2020年11月にチュニジアのチュニスで会合した「リビア政治対話フォーラム」(国連の主導で設立されたリビアの地域的あるいは分野別の利益を代表する勢力・派閥の代表者74名で構成された組織)が合意したロードマップには、新たに統一的な暫定政権を設けること、暫定政権は今年12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが規定された。暫定政権は大統領評議会(大統領と二人の副大統領)および国民統一政府(首相、二人の副首相、その他閣僚)から構成されると定められた。今年2月5日、同フォーラムは暫定政権を構成するメンバーを選出した。次いで、3月10日、アブドゥルハミド・ダバイバ首相が率いる内閣を議会(東西の対立を抱えている)が承認し、5月15日に新内閣が発足した。これまで対立して来た、国際的に承認されたトリポリのリビア国民統一政府(GNA)と、ハフタル司令官率いる東部のリビア国民軍(LNA)は、平和裏に権限を移譲したのである。

 これまで相対立し争って来た勢力が単一の暫定政権に合意出来たことは特筆すべきことである。LNAを含め国内の諸政治勢力とこれに連携する軍事組織、およびそれぞれの支援勢力を有する諸外国も少なくとも表面的には支持の姿勢である。実業家のダバイバが大物政治家を差し置いて首相に選ばれたことは驚きであったらしいが、(カダフィ時代の腐敗の匂いは引き摺っているが)いずれの方面とも話が出来るとされる彼が首相であることは助けとなっているようである。他方、彼はトルコに近いようであり(5月初め、トルコのチャウショール外相はリビアを訪問して会談した)、また東部のミスラータ出身でもあり、ハフタルとの関係はどうかという問題もあろう。

 しかし、リビアの前途はとてつもなく多難である。政治的・地理的に分裂し、国民が日常生活に窮する国で、軍や中央銀行を含め分断した政府機構を一つにまとめる必要がある。休戦(10月以来概ね維持されている)が維持されねばならない。国連が設定した1月23日の期限を無視して今なお外国軍隊と傭兵が存在し、彼等の策謀の危険は去っていない。

 ハフタルのLNAは現在、ロシア、UAE、エジプトが支持しており、2019年4月から2020年6月にかけてトリポリを奪取しようとして失敗したが(トランプ政権も暗黙裡に侵攻を支持するような姿勢を見せていた)、これが大変な殺戮を招くこととなった。LNAの侵攻を食い止めたのはトルコの大量の軍事援助である。リビアの和平プロセスにとり最も手に負えない問題は、合意を無視して数万人の外国兵が未だにリビアに存在すること、特にトルコ軍の存在である。5月8日には、トルコ軍とその傭兵に撤退を要請した暫定政府のナジラ・アル・マンゴーシュ外相に対し、民兵が彼女を探してトリポリのホテルを急襲するという事件もあった。

 いずれにせよ、米国をはじめ西側は、リビアがロシアとトルコの食い物にされるのを防ぐまたとない機会を逃すべきではない。米国はこれを機にリチャード・ノーランド(駐リビア大使)をリビア担当特使に任命した。これは、公式にはGNAを承認しながらハフタルのトリポリ侵攻を支持するようなそぶりを見せたトランプ政権の出鱈目なリビア政策を清算し、米国がリビアの政治プロセスに真剣に関与するというメッセージを発することになろう。しかし、事態がどう転ぶかは分からない。既に草案ができている憲法を成立させ、選挙法を整備し、予定通り12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えないであろう。

  
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